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2006年11月28日(火) 哀しい予感/吉本ばなな

哀しい予感/吉本ばなな

あっという間に読めてしまう小説である。

哀しい予感。

哀しい余韻を残す小説である。

哀しいは、悲しいではない。
哀しい、とは、甘酸っぱい疼き。
そっとすくいあげないと壊れてしまいそうなあやうさ。
曖昧な輪郭をそっとなぞっていく愛おしさが、この本の哀しみだ。

難しい小説ではない。
こういったストーリーは、ちょっと探せばどこにでもありそうな話なのだ。

内容は、はっきりおぼえているのに、何度となく読み返してしまうのは
文章の美しさではないかとおもう。

ところどころに散りばめられた、はっとするような言葉。
それも、決して小難しい表現ではなく、
誰でも書けそうな言葉なのに、ぴたりとそのシーンにはまるのだ。

ここには、これしかない、とおもえる的確さで。

この気持ちのよさを味わいたくて
わたしは、またこの本を手に取るのだろう。



P109〜P110
降り注ぐような、にじむような白い粒々の、
あれがみんな星だと思うと、子どもの頃はわけもなく悲しくなった。
見上げた木々の合間を埋めつくす星の、幾億もの輝き。
〜〜〜〜中略〜〜〜〜
父は言った。
「あんまりたくさんありすぎるものを見ると、人間は不思議と悲しくなっちゃうんだよ。」

P149
私の中で起こったこの変質は年齢を重ねていくことに吸いこまれてゆくだろう。
ああ、ほんとうにわからなくていいことなど、ひとつもないのだ。



吉本ばなな という人の小説で
わたしは、生まれてはじめて、読みかけの本を最後まで読まず
放り出してしまう、という経験をした。

『キッチン』だったか『TSUGUMI』だったか
忘れてしまったが、ベストセラーなんだけどな。
よさがわからないことが悔しくもあったりした。

が、それも、相性というものなのだろう。


それから何年もたってから、古本屋でみつけたのがこの本だった。

文庫本の表紙の絵に惹きつけられたのかも知れない。
裸でスプーンを視力測定をするように左目にかざし
しかも、目を閉じている女性の絵。

吉本ばななさんの本。
一瞬ためらったけれど、
表紙の女性に呼ばれたような感覚は間違いではなかった。
わたしにとって、再読を重ねる大切な本になったのだから。


けれども、だからといって
やはり、相性の悪い本は、あるのだ。

「哀しい予感」「アムリタ」などは、とても好きなのだけれど。。。








2006年11月22日(水) 高丘親王航海記/澁澤龍彦

高丘親王航海記/澁澤龍彦

天竺へと向かった高丘親王の航海記。
「儒艮」「蘭房」「獏園」「蜜人」「鏡湖」「真珠」「頻伽」という
7章それぞれが美しく淡々と綴られている。

高丘親王という人は実在の人物だが、
天竺へ向かうというこの旅の話は澁澤龍彦の創作である。
人の言葉を話せるようになる儒艮、想像上の動物であるはずの獏、
人間の顔と上半身に鳥の下半身を持つ女、人の身体に犬の頭を持つ男、
摩訶不思議な生き物がごく自然にあたりまえに存在しているという夢幻譚。

死を身近に感じている高丘親王にとって
現実世界と幻想世界の境目などない。
現在と過去と未来の時間の境目すらもなくなっている。
現実に見えて、実はこの瞬間はすでに現実ではなく
夢のようにおもえるが、夢でもない。
この世とは、すべてまやかし、あの世の鏡像のようなものだ。

澁澤龍彦の文体は、素っ気無いほど淡々としていて
エロティックな箇所も、粘りつくようないやらしさがまったく感じられず
ただただ哀しいほどの透明感ばかりが漂っている。

澁澤龍彦自身が、死を見据えつつ書いたというこの小説。
余命がいくばくもないという設定の高丘親王は、
まるで澁澤龍彦自身であるかのようだ。

「そうれ、天竺まで飛んでゆけ」
文中で語られる高丘親王の台詞が、
澁澤龍彦のハスキーでセクシーな声となって聞こえてきた。


2006年11月13日(月) 一千一秒物語/稲垣足穂

一千一秒物語/稲垣足穂


稲垣足穂(1900-1977)
23歳で『一千一秒物語』を処女出版。


なんとも不思議な物語である。

万華鏡のように、視点をかえるたびに
キラキラと輝く部分が見えてくる。

ひとりきりの夜のなかにあって、
内面に夢幻の宇宙を引き寄せることが可能な気がしてくる。






2006年11月12日(日) 鉱石倶楽部/長野まゆみ

鉱石倶楽部/長野まゆみ

わたしが持っているのは、単行本のほうなのだが、
本のタイトルと、夕焼け色のカバーがとても綺麗。

たくさんの鉱物の美しい写真と小さな物語。



蛍石(fluorite)のページ

螢玉(ほたるだま/flourdrop)
螢光を帯びているので、夜間の採集に適している。
水草や睡蓮の咲くところに多く夏至の頃が最盛期。
〜〜中略〜〜
そのまま賞味することもできるが、
糖度が高いので煮溶かして葛粉をまぜジュレにするとよい。
猫族の情報によれば、半夏生の祭りには欠かせないお菓子だそうである。



水、夜、猫、と、大好きなキーワードがちりばめられたこのページを見て
この読書memoを書こうとおもったので最初の本はこれに決定。


2006年11月11日(土) fluorite/蛍石


fluorite とは、蛍石 のこと。
宝石には興味はないけれど、鉱物は好きだ。

加熱すると光るという蛍石。
本を読むことで、熱を帯び輝きたいとおもう。


読書傾向としては幻想文学、ファンタジー、などが多いかもしれない。


さんざん乱読してきたけれど、
最近は、過去に読んだものの再読が主体になりつつある。
手放した本を、また買い集めることも。

読み方、感じ方が変わっているものもあって面白い。


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