カゼノトオリミチ
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2010年03月23日(火) 眠りの谷




今夜も 眠りの谷へと
歩いてゆく

風がザワザワ
高いところで木を揺らし
子守唄 歌う

湿った森の香り
安らかなキオクが
ワタシのまわりに
降り積もる

まぶたの裏では
絡まる糸が
乾いた洗濯物のように
風に舞う

カタタンカタタン

今日は遠く
電車の音が聞こえる

行く先は
きっと
春浅い うす灰色の海

砂浜のはじっこに
オレンジ色の
名前のない花が
揺れている

ワタシの切符は
ポケットのなか
日付の文字は かすれて
もう読めない

細いほそい
キオクの糸を 手繰り

眠りの谷を
今夜も旅する






2010年03月07日(日) クジラの見る夢




高くたかく
月が天にあがるころ

電気を消した暗闇に
現れる
一匹のオオカミ

ワタシの布団の足元で
長くながく
伸びをする

旅を終え
黒い海原に横たわる

孤独なクジラ

チカチカ夜光虫が
縁取る
山のような
波のうねりに
身をまかせ

うねりの数を
数えながら目を閉じる

月は天から
すべてを照らす

街も海も
すべての夜を
照らしている

オオカミは
足をたたんで
昔ばなしの夢見て眠り

クジラは
罪滅ぼしの旅へと
再び出掛ける

夢を見る




2010年03月01日(月) 気配




灰色がほんのり
春色を帯びて
街をつつむ

ココロにも
少し湿った灰色が
降り積もる

こんな日は
自転車を降りて
歩こう

目には見えない気配
チイサナ命の
微かな蠢きを

足の裏で
感じて歩く

自転車の荷台の
春キャベツ
新タマネギと新ジャガイモが
ゴトゴトと
てんでに歌う
春の歌

道路に散った
白い梅の花びらは
花嫁さんの着物のように
まぶしくて

灰色も
ほんのりと
春色に頬を染めて
夕暮れ帰り道


natu