カゼノトオリミチ
もくじ過去未来


2007年02月28日(水) わたしのわたし




おや指がかゆくて 知らずに引っ掻いてた

こんな程度の傷 知らない間に治って

いつか忘れてしまう



こんなふうにして どんな記憶も

きっといつか消えてゆくのかな

人間の記憶装置って



おまけに ついている

自動修復装置



傷ついて 傷つけて

コイツ なんて面倒なと思いながら

知らないところでフル活動の 精神制御装置



ほんとうにあなたがたよりです



今朝の太陽もまぶしいです






2007年02月23日(金) 眠りの淵で出会う人




毎夜 眠りの淵で会う人は

私に語りかけるでもなく

私を諭すわけでもなく



きっとお城の衛兵の お役交代の儀式のように

厳かに 静かに 当たり前のように

すうっと 私の脳裏に入り込み

薄汚れたポケットの深いところから

ひとにぎり 出してきた眠りの粉を

まぶたの中に ふりまく



なので私は その人の表情も見ることが出来ない

けれど毎晩 出会っているに違いない

今日も 明日の夜も

悲しい思いの夜も 心 穏やかな夜も



長いひげはぼうぼうと ごついしわだらけの老人で

背は小さく ちょっと意地悪そうかもしれないと

そんな空想を出来る夜は

案外と すんなり眠れる








2007年02月15日(木) おはよう




ピチューとひびく挨拶の声

雨上がりの樹木がきらきらと朝日に輝き

今日はどれぐらい顔を出そうかと 新芽は伸びをする



山のほうでは まだまだ小枝ばかりが目立ちますが

日の出から もう2時間がたち 暖められた土からは

きっとほこほこ 湯気があがっているでしょう



ベランダから 風におはよう どこからきたの?

背中で洗濯機が ピーと呼んでいます

カラスたちはすでに街の上空を 一回り偵察済み

ゴミ出しの地区と時間を確認後の 小休憩でしょうか



一日は いちにち 誰にとっても

あるものは 伸び あるものは 沈み思慮深くなり

輝きを受けたければ 光の方向を向くしかない



山の息吹を思い出そう カラスの黒光りする羽に乗り

違う視点で 遠くまでみまわしましょう

はるか横たわる 雪帽子かぶった連山まで


そんなに甘くはないよ と 風はまだ冷たくやや強く

ピリリと頬を刺すけれど
















2007年02月13日(火) 浅い春 灰色の




浅い春の曇りの街は

みえない何かに 覆い尽くされてるみたい 



暖かで細かな水の粒子が

湿り気となって 優しく包んでくれるから

人はなんだか 足元の歩幅も狭くなる

いつもよりほんの少しミルクが多すぎたコーヒー

飲んだ時のように 頭が重く

どんより どんより 胃にたまる



視界が狭く感じるのも 遠くが霞んで感じるのも

春の気配が 灰色のもやとなって

この街に流れ込んでいるせい



すれ違いざまの挨拶も 聞こえづらいです

こんな日は 音が伝わりにくいのね

くぐもった声で 誰かの会話が でも知らん顔



ぱたぱたぱた 飛行の練習でしょうか

ヘリコプターが いつまでも頭上を旋回しています

からかわれているような 監視されているような

それとも何事か 非常事態でしょうか

足が前に動きません



浅い春の曇り空

過去の記憶がにじみ出して

街も どこか夢見がち

回転翼の回る音も 早熟の土鳩の嘆き声も

オブラートかかった耳には

やけにのんびり 響きます












2007年02月09日(金) カゼノトオリミチ




春のはしり ぼんやりした もやの街では

チクタク 流れる時も 停滞気味

耳をすりぬける

よそゆきの バイオリンの調べのようなら いいのに



ばかなことばかり言うなと 軽く笑ってもらえたら

手のひらに うんと積もったコトバ 

風に吹かれた砂のように するすると

どこか 消えてゆくのかな



忙しいふりで 早足で歩こう 

目の端からちぎれる湿り気を

街のそこここに撒き散らしても 知らん顔



望まなくても生まれる思い が 時の流れを

ゆっくりにして 足が前へと進まないなら

そんなもの

誰にも 気づかれないように

そおっと

カゼノトオリミチに 捨てて歩く








2007年02月05日(月) 荒涼




氷の海を渡って吹く風は容赦なく

墨色の樹木たちは ただ目を閉じて寄り添う



のしかかる厚い雲の重さに耐えかね

薄目を開けてみれば

相変わらずに荒涼たる この果ての世界



次に目を開けた時には きっと

春の兆しを宿した薄日が 雲と空の隙間から

きらりと ひと時 氷の粒を照らす

そんな夢を見た気がする



さく さく と 霜柱 踏みつけ
 
誰か歩いてくる音が でも もう目を開けはしない

土中に置き去りにされた記憶が

風のすすりなく声を まだ覚えているだけなのだ



私はもう とっくに朽ちてカタチなど ないのだから










2007年02月01日(木) 手のひら




立春 ちかくなり

あふれる陽光はまぶしすぎ

窓辺からひと足 後ずさる



自分に出来ることだけ考えてみる

自分の守れるものだけ

手のひらにのせてみる



心に思うことと

実際 出来ることとの数は合わない

でも できるだけ そう思えば 思うほど



パズルはやめて

光の射す方向だけを 探そう

今できること



手のひら そうっとにぎりしめる




natu