My life as a cat
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2017年11月28日(火) L'Atelier d'Anglais

アトリエ・ガストロノミク(L'atelier Gastronomique‥料理同好会のようなもの)で知り合ったドイツ人紳士に誘われて彼の主催する英語のクラス(L'Atelier d'Anglais)に参加した。

「みんな英語のできないフランス人だから君のフランス語勉強にもなると思うよ」

アトリエ・ガストロノミクは、おしゃべりに夢中になって食べ物を焦がしたりする非常にゆるい雰囲気の会なので、こちらもただみんなで雑談するようなところかと思ってバスケットを提げて朝の買い物の途中に立ち寄ったのだが、着いてみると普通の語学学校のような雰囲気だった。先生が前に立ち、プリントを配り、生徒とエクササイズや穴埋め問題をする。本当に初級の初級なのだが、生徒はなかなか真剣できちんと辞書を持ち込み、ノートをとっている。時間にちょっと遅れて、着席するなりプリントを渡され、ここに書いてある内容を織り交ぜて自己紹介をと言われる。

"My name is ***・・・ I am from ***・・・, My age (エェ!年齢みんなの前で公表するの!?、、、ま、いっか) I am ** years old "

と言ったところで先生がすかさず横やりを入れる。

"Excuse me? 31 years old?"

"No, 41"

教室中が沸く。確かにわたしはいつからか成長が止まった感じなのである。肉を食べないせいかと思うふしもあるのだが、36歳の妹は20歳と言っても通用するような見た目なので遺伝的とも考えられる(彼女が22歳の時、オーストラリアに訪ねてきたとき、レンタサイクルで子供用自転車を出されたという可笑しな話もあるくらい)。続いて日本にいた時の仕事のことや、フランスに来た目的などを話した。

前の席にリュカの患者だというマダムが座っていて、親切に英単語を全てフランス語に訳した手書きのプリントを見せてくれる。でも、フランス人のハンド・ライティングで読めない・・・。仕方なく好意だけ受け取り、写すふりだけしておいた。

「今日は身につける物について単語練習しましょう」

"hat" … chapeau!
"mitt…gant!

とやっていく。ハイヒール(high heel)が出てきた。

"アイイール!"

と一番前に座っていたムッシューが発音する。先生がすかさず直す。

"ノー、ハイヒール"

"アイイール!"

フランス語ではH(アッシュ)を発音しないせいか、発音できない人もけっこういるらしい。

次は数字の練習をしましょう。

"Twenty minus eight equals…"

ひとりのマダムをポイントする。

"seven!"

これに思わず笑ったのはわたしと先生のみであった。

最後に雑談。

ひとりのムッシュー「先生、"Black Friday"ってなんですか?わたしは今年初めてそんなものを目にしたんですけど」

先生「ヴァレンタインなんかと同じただのコマーシャルですよ」

ひとりのマダム「先週ニース付近のマーケットに車で行ったらパーキングがなくて車を停めるのに2時間かかり、車を降りると今度は人が多過ぎて目的地に着くまで1時間かかって結局何も買えずに帰ってきたわ」

先生「昔はクリスマスといったら家族が集まって過ごすというイベントだったのに、今では子供達やら孫達全員にプレゼントを用意しなければ家に入れてもらえなくなってしまった。このイベントに頭を抱えている人も多いでしょう」

一同ため息。

先生「日本ではクリスマスはどうするのですか?」

わたし「日本ではこの日は休日ではないのでみんな働いています。ただ日本はアメリカのようなコマーシャルな国なのでこういう時に物売り合戦は加速します。若いカップルなんかだとプレゼント交換をしたり、あとはちょっとしたご馳走を用意したりみんな好きなように楽しみます」

日本やアメリカには及ばずともフランスにも確実にコマーシャルの波は押し寄せているのだろう。英語もフランス語もちょっと初級過ぎて、目指すものとは違ったが、こうやって現地の人々と交流し文化や風習を知るというのも上達へのステップであろう。このまま通い続けようかと思う。

(写真:アトリエ・ガストロノミクで作ったGâteau au chocolat et aux amaretti 。アマレッティのビスケットがあまり好きでないので期待していなかったのだが、ショコラとの相性バッチリ。とびきり美味しいケーキとなった)


2017年11月26日(日) サンレモ土産

サンレモではフランス側で見かけない食材も多々あって、沢山買い込んでしまった。

●空豆・・・東京近郊においてはたいてい初夏に出回るが、こちらでは"今が旬"かのようにあちこちで見かけた。日本のよりうんと小粒だが、生で齧っても甘くて美味しい。ラビオリの中に収まった。

●パルメジャーノ・・・同じ物でも熟成期間が長いほど高くなるとのことだ。初心者で味の違いなどいまいちわからないので一番安い塊を買ってきた。空豆のラビオリの上にたっぷり削って振りかけた。

●からし菜・・・日本のと変わらない。

●栗・・・小ぶりになるほど価格が下がる。味は変わらないがみんな大きいのを欲しがるんだそうだ。ひとつひとつ凝視しながら慎重に選んで袋に入れていたら店のマンマが"マンマ・ミーヤ"と呟きながら呆れ顔でスコップみたいなのを手渡してきた。触るなというなら・・・とスコップに乗せてから凝視してたら、マンマは気絶する素振りを見せる。確かにいつも栗の売り場でひとつひとつ360℃眺めてから袋に入れてるわたしを不思議そうに見てますよ、現地の人々は。でも虫が入ってたりすると嫌なんだもん。。。

●紫蘇?・・・紫蘇と信じて買ったら味も香りもない。えごまとも違うっぽいし。食べ方も解らず、今となっては名前も解らないので調べることもできず冷蔵庫に放置。イタリア人の知人に出くわしたら聞いてみよう。

●オリーブ・・・リグーリア産のオリーブを正味2垤愼。

●古代小麦粉(スペルト小麦粉)・・・健康にこだわる人の間ではけっこう流行ってるらしい。リュカがよく朝食にこの小麦のミルクを飲んでいる。パンを焼こうと買ってきた。ちょっと扱い方が他の小麦粉とは異なるようだ。

●ライ麦粉・・・フランス側で見つけられなかったので購入。

●乾燥パスタ・・・ナポリのパスタでカネローニを半分に切ったみたいな"パッケリ"というのを買ってきた。細川亜衣さんのレシピを見てトマト・ソースだけで和えて食べた。やっぱりこのソースにはパッケリなのか。またまたパスタの形とソースの関係に思いを馳せる。

●カタクチイワシ・・・"alici"というのがカタクチイワシのようだ。1垤愼。大した量ではないように見えたが、人間2人と猫1匹かなり楽しむことができた。



ペペロンチーノに湯がいたからし菜とセモリナ粉をまぶして焼いたカタクチイワシを添えて。



イワシの蒲焼丼。ここでもすごく幸せだけど、醤油の香りにふと日本に帰りたくなったりする。




クロエちゃんは突然差し出されたご馳走に"何があったんだ?"と訝りながらも6尾分の刺身をペロリと平らげた。

そして残りでアンチョビを仕込んだ。来春くらいには食べられるだろう。

2017年11月25日(土) サンレモへ

イタリアのリグーリア州にあるサンレモ(Sanremo)へ行ってきた。

フランス側からヴェンティミーリア(Ventimiglia)まではフランスのSNCFで。イタリアの国鉄"Trenitalia"に乗り換える。SNCFの電車はJRと比較しても安いし、テーブルやゴミ箱、コンセントが設備されていて座席も快適だ。ところがTrenitaliaは料金も高く、テーブルとコンセントはなく座席は真っ青ののっぺりとした合皮のシートで雰囲気が薄暗い。



ヴェンティミーリアから20分ほどでサンレモ駅に到着。駅はトンネルの中で通路がやたら長い。しかし無料のトイレを見つけて歓喜。駅の外観も電車と負けず劣らず重苦しい。



駅は町の中心地から少し離れている。5分か10分歩くと大分賑やかになってくる。写真にないが、町の中をケーブル・バスが走っている。



マクドナルドの様相がヨーロピアン。フランスではマカロンを置いているが、イタリアではパニーニを置いてるらしい。



この紳士二人は双子と見た。



サンレモ音楽祭(Festival della canzone italiana)の会場となるシアター。パディントン兇上映中。観たい!しかし、イタリアもフランスと同じく吹替しちゃうらしい。テレビで放送されてるアメリカ映画とかたまに観るけど、フランス語喋ってるイーストウッドとか見るに堪ない。



名前の由来聞いてみたい。



市営のカジノ。






教会とオルガンおじさんとオリーブの木と黒い傘。風情ある。



この辺りは小さな商店がひしめいている。お腹が空いてることもあって匂いに釣られて中へ。しかし、美味しいランチを食べるため匂いだけ吸い込んで終わりにした。



庶民の台所なのか観光客の名所なのか、大きな市場へ。市場の前では店舗すら持たないアフリカから押し寄せた移民(というのか難民というのか)が時計やバッグを両手いっぱいに抱えて売っている。物乞いも多い。しつこくイタリア語で何か言いながら着いてくる物乞いがしきりに"Manger"と言ってるのが聞こえたので買ったばかりの栗を3つ手のひらに乗せた。するとこんなの要らないという手ぶりで突き返された。結局酒やらたばこを買う現金が欲しいのであって、本当にお腹が空いてるわけではないのだろう。


野菜、肉、魚、チーズなんでも揃うマーケット。地中海は魚が豊富でない。豊富に獲れないので価格が年々高騰し、その結果人々が買わなくなる。結局種類も少ない上に価格も高く、また輸入ものも多い。コート・ダジュールでは魚は買う気になれない。日本とは比較にならないが、リグーリアはフランスと比較すれば大分まし。今日は魚を買うと決めてきた。わたしと暮らすようになってから家で肉も魚も一切食べていないリュカと、何より急に飛行機に乗せられ、出てくる食事もがらりと違うものになってしまったクロエちゃんにアンチョビのお刺身を食べさせてあげたかった。どこの魚屋も品揃え価格ともほぼ同一。揃えているのだろう。適当なところでアンチョビを1塲磴辰拭アイスも付けてくれたので助かった。出口付近でひっそりと死んだ魚のような目をした老婆が魚を売っていた。客がいないのが頷ける・・・。やっぱり魚屋は威勢がよくないとダメな商売なのだな。



ペット・フードの量り売り。ちゃんとブランド名が書いてあるので安心。



やっとランチ。Trip Adviserで高評価を得ていた"Camelot"というお店へ。



テーブルに着くとすぐにボウル一杯のマリネされたドライ・トマトとパンを出してくれる。とっても美味しくて期待が高まる。



雰囲気もとても良い。シーフードのフリットとトマト・ソースのニョッキを採った。しかし一口食べて、期待は落胆に変わった。なんというのかすごく上品な味付けでフランス人のなかなか腕の良いシェフが作ったイタリアンといったら納得するだろう理屈っぽい味。そういえばこんな照明などムード漂わせてるところもフランス臭むんむんだ。フランスが悪いわけではないが、イタリアにはイタリアを期待して来たのでがっかりした。食後のティラミスまでいったが、やっぱりフランス臭は消えなかった。



大きなチェア。



旧市街は一見の価値あり。昼間でも薄暗い迷路のような坂道の途中に庶民の暮らしがある。






歩き回ってジェラート屋で一休み。水を一杯と頼んだら、30セントチャージされた。フランスと違ってイタリアではよほど観光客慣れしたところでなければ無料の水がない。トイレと水は当然無料だと思っている日本人には解せない。しかし、マーケットでハーブを数本掴んで会計を頼むと、そんな少量ただであげるよ、とか言われたりする。ハーブの2,3本は無料で一杯の水は30セント。やっぱりまだよくわからないな、イタリア。

帰りの電車の中から見た夕陽。

2017年11月22日(水) Crema di castagne arrosto

日本を発つ前日、栗の渋皮煮を作った。家族が美味しいと絶賛し、こんな手間のかかるものはなかなか作れないから、と叔父と叔母にも分けた。ところが叔母も栗と芋を合わせたきんとんを煮ているところで、お土産にそれを持たせてくれた。母と成田空港へ行き、クロエちゃんの鳴き声が迷惑にならないように人気のないベンチに座って叔母の作った栗と芋のきんとんを食べた。栗に目がなくて舌に乗せると確かに美味しいと感じるのに、クロエちゃんを飛行機に乗せる不安と家族から遠く離れる寂しさでうまく呑み込めなかった。新天地では栗とか手に入るのだろうか、もしかしたらもう栗もおしまいなのか、とぼんやり思った。

ところが、こちらに着いたら栗パラダイスではないか。€3−7/kgでこれは東京周辺よりも安いのではないか。味も良いし、何よりどこにでも売られている。そしてもう11月の下旬で大分寒いのだが、フランス産の栗が手に入るのだ。栗はどうやっても美味いが、いちばん簡単で絶品なのはフェンネル・シードと一緒に煮たものだ。栗がかぶるくらいの水と1kg辺り大さじ1程度のフェンネル・シードを入れて1時間くらいコトコト煮て、お湯から上げて普通にナイフで皮を剥いて食す。信じ難いが、栗の味に深みが出ると言うのか、このフェンネル・シードが非常に大きな働きをしてくれる。

細川亜衣さんの「パスタの本」より"焼き栗のクレーマ"を作った。全粒粉入りのパスタを練って、栗の形に切り抜く。栗は50分蒸してから剥いて、オリーブオイルをまぶして10分焼く。更に水で煮て、煮崩れたらミルクと塩を足して、ブレンダーにかける。それを更に煮て、再度ブレンダーにかけて気泡を作って茹でた栗のパスタと共に盛り、仕上げにカカオ・パウダーをかける。材料はシンプルだが、工程が複雑だし、何よりとても時間がかかる。しかし、そのお味はそれに報いるものだ。芳ばしい焼き栗とやさしいミルクのスープと全粒粉のパスタがよく合う。

「レストランみたいなプロっぽい味。うま〜い!」

と二人で感嘆。しかしレストランと違って、これに時間がかかって他の物まで手が回らなかった。

「まずはアントレ」

なんてすまして出して後に続く料理を期待させておきながら、その後は簡単に炒めた青菜と朝に焼いて残ってたパンと冷蔵庫にあったチーズしか出てこなかったのであった。


2017年11月21日(火) お祝いのタルト・トロペツィエンヌ






















あれこれと事件があって一時はどうなることかと思ったが、8月の上旬に送った家財道具一式が先週やっと手元に還ってきた。週末は家具の組立やら梱包材の廃棄などで大忙しだったが、実に3か月ぶりに自分のベッドに体を横たえると長い長いバックパッカーの旅から帰還したような気分だった。クロエちゃんも同じ気持ちなのだろうか。小さな時から慣れ親しんだキャットタワーに大興奮して、遊び疲れるとベッドで寝ていた。

そして今日はOFII(移民局)から召喚されて滞在許可証の取得(VISAの有効化というほうが正しいのか?)に出向いた。こちらも出向くまではあれこれとあったが、今日はあっけなく終わり、無事滞在許可が下りた。引越のことと滞在許可証取得の顛末は後日改めて書くことにしよう。

今日はからりと晴れて暖かかった。リュカが仕事を休んで一緒に来てくれたので、よほど心強かった。週末よりも静かなニースでゆっくりランチをとって、地中海沿いを下るバスに乗ってOFIIへ行った。ニースの空港に到着した日もこんなきれいに晴れ渡った日で、地中海は煌いていたけれど、クロエちゃんを連れていて、不安で不安で早く通り過ぎたかった。ニースの空港は海に隣接してて着陸時が美しいから絶対見て、と同僚が教えてくれたが、見たのか見なかったのかそれすらまったく記憶にない。

こちらへ来て2か月弱。やっと腰を落ち着けることができた。家に辿り着いたのが遅かったのでありあわせで夕飯を作って、そこらへんに転がっていたワインを開けて乾杯。デザートにブリジット・バルドーが有名にしたサン・トロペ(Saint Tropez)名物タルト・トロペツィエンヌ(Tarte tropézienne)をいただいた。ブリオッシュにクレム・トロペツィエンヌというバター・クリームとホイップ・クリームの愛の子のようなクリームを挟んだだけのお菓子。日頃カチカチのバゲットを齧って、硬い水を飲んでいると、こういうふわふわのお菓子を食べる時、すごく甘やかされている気分になるものだ。

「いつか切ったのじゃなくて大きな丸いのにそのまま齧り付きたいね」

空想はむくむくと膨らんだが、タルト・トロペツィエンヌは口の中で瞬く間に萎んで胃袋の隙間にぴったりおさまった。

(写真:木の葉が落ちたらいよいよ冬がやってくるのだろう)


2017年11月13日(月) Estômago

リュカの友人でブラジル通のジョルジュ君おすすめの映画"Estômago"を観た。邦題は「イブクロ」。日本に来たものの、小さな映画館で放映され、まったくウケなかった感じだが、わたしすごく好きだな、こういう映画。

ノナトは良く言えばイノセント、悪くいえばちょっと頭の弱い青年。ところが彼には料理の才能がある。無銭飲食で代金を支払えず、働かされることとなった場末のカフェはたちまち人でごったがえすようになる。

ある日一人の娼婦がカフェに入ってくる。むっちむっちなダイナミックな体躯で、いかにも美味そうにノナトの拵えたコシーニャを頬張る娼婦。その夜ノナトは彼女の客となる。

コトがひと段落すると、お腹を空かせた娼婦は素っ裸のまま冷蔵庫を開け、中に入っていたコシーニャを見つけ、また頬張る。豊満な乳房を揺らしながら似たような形のコシーニャを頬張るこの場面はあまりにも印象的で、たちまちお腹が空いてきて生唾を呑みこむ。「空腹で生まれてきた」というこの娼婦はその後のシーンでもとにかくよく食べる。コトの最中でもプッタネスカを食べていたりする。この肉付きの良い食べたら美味しそうな身体の娼婦が、ダイナミックに食べ物を呑みこむのを見ていると無性におなかが空いてくる。そしてそこがこの映画のキーなのだった。

映画に感化され、コシーニャを作ってみることにした。本来のコシーニャは鶏肉とクリームチーズやハーブを混ぜた物をパンの生地で包んで鶏の腿の形にしてパン粉をまぶして揚げたものらしい。わたしはチキンの代わりにジャガイモを潰してハーブと混ぜてフィリングにすることにした。揚げ物はやりたくないのでオーブンで焼いた。本当はもっと尖った形なのだが、生地がダレて、ただのオッパイのような形になってしまった。形はどうであれ焼きたてはもちろん美味い。

「ふわふわであったかくて本当のオッパイみたい」

リュカも喜んで食べてくれた。

参考:(コシーニャ(Coxinha)の作り方


2017年11月12日(日) 散歩の途中で見つけたもの


久々にからりと晴れたので丘の上まで散歩に出た。道中で見つけたものふたつ。


オリーブの実。この辺りはどこもかしこもオリーブの木だらけ。山で自生しているオリーブは栽培されているものよりもずっと実が小さい。時間はかかるが、自家製の塩漬けを作ってみようとポケットいっぱい収穫した。


山羊。こちらは野生ではないが、どうやら脱走したらしく、自由に歩き回ってそこら中の草や花を食べていた。食べるのに夢中で近寄っても全く気にかけない様子だが、カメラを向けて、

"Photogenic!"

と声をあげるとしっかりカメラ目線をしてくれる。そのうち飼い主が迎えにやってきたが、あざ笑うかのように奇声をあげて遠くへ走って逃げて行ってしまった。

2017年11月09日(木) マダム・ドミンゴのクレープ

「リュカってどんな人?」

と母に聞かれたことがあった。良いところを羅列して、最後にひとつおまけで短所を付けておいた。

「ちょっとのろいところがあってたまにイラっとするけど」

わたしはせっかちで待つのが嫌いだ。リュカの家事の様子を初めて見た時は面食らった。皿を1枚スポンジで磨き、隅々まで水で流す。そして次の皿・・・。小さなリビングの床を掃く。ソファをどかして、棚の裏、テレビの裏、冷蔵庫の下・・・1時間かかる。棚は乾いた布で拭く。一点の曇りもないようにキュッキュッ・・・1時間。週末ごとに大晦日のごとく掃除する。こんなに時間をかけるので洗いあがった皿も部屋もピッカピカだ。物事を完璧にやらないと気が済まないので、何事にも非常に時間がかかり、沢山のことがこなせない、と本人が言っていた。

先日の休日の朝、突然テーブルの上に患者のカルテのような物をどっさり置くと、

「今日は絶対これを終わらせる」

と宣言し無我夢中で記入しはじめた。あまりにものめりこんでいてとても話しかけられる雰囲気ではなかったので何も聞かずに遠くで読書していた。内心、やっぱりちょっとのろいから勤務時間内で仕事を片付けられないのではないか、冷ややかに思っていた。ランチを作って恐る恐る話しかけると、やっとこちらの世界に帰還した、という様子だった。一体何をやっているのか、聞いて自分の発言を深く後悔することになった。

「患者さんの前で記入することもできるけど、なるべく長く話してケアに時間をかけたいと思うとどうしてもこういうのが後回しになってたまっていっちゃうの」

病院といったら毎初夏に仕込むアンチョビのごとく、ぽんぽんっと捌かれて待合室に積み上げられるみたいなのしか知らなかった。人数をさばかなければならないという事情があり、意図してそうなるわけではないのだろうけど、1秒足りとも無駄な時間を使いたくないといった雰囲気が居心地悪くさせる。彼が庭の木になった果物で作ったコンフィチュールだの、庭の鶏の卵だの(そしてこういうものは非常にありがたい)たびたび患者さんからのおすそわけを携えて帰宅する理由がよくわかった。"のろい"なんてひとことで決めつけたことを反省した。

午後も作業は続き、外が暗くなってもまだ朝と同じ姿勢のままだった。静かに、それでも力強く熱中して何かを書き上げる姿は、机に夜通しくっついてユダヤ人のためにビザを発給した杉原千畝の写真を彷彿させた。

夕飯の後、スペイン人と結婚したフランス人であるマダム・ドミンゴという患者さんから頂いたクレープを焼きなおした。カソナードを振りかけてたたみ、バターとシナモンを乗せる。こんな美味しいクレープははじめて。小学校で作り方を教わるくらいシンプルなクレープだが、シンプル故に材料選びや分量、焼き方で味に違いが生まれるのだろう。今度レシピを聞いてくれるように頼んだ。どんなに時間を要しても結果がちゃんとついてくるのだからいいじゃない。彼への尊敬の念が生まれた日だった。


2017年11月04日(土) Les Image de Provence

マントン(Menton)へ買い物へ出かけた。"Les Image de Provence"という土産物屋さんのようなお店でテーブルクロスを見るのがいちばんの目的。オリーブやラヴェンダー、蝉(幸福のシンボルとされている)、貝殻をモチーフにしたものが沢山ある。豊富な品揃え。じっくり見てまわり、目をつけたのはジャカード織。価格は張るがやっぱりのっぺりプリントされたものより風情があって美しい。一番気に入った柄のはちょうどいいサイズがなく、1時間ほどかけてあぁだこうだとあれこれ広げた挙句、帰宅してゆっくり検討してこようという結論に至った。

大きなストリートに面したこのお店の入り口から反対側に抜けると、その向かいに青果、肉、チーズ、パン、オイル、花、、、と一通り揃うマルシェがある。土曜日は午前中で終わるのでざっと見てまわりパルミジャーノとセージを買った。内田洋子さんの「皿の中に、イタリア」という本の中でリグーリア産のオリーブは小粒だがとびっきり美味しいと読んだ。こちらに来てすぐに購入してみたのだが、たまたま美味しいものに当たったのか、本当に今までで一番好きな味だった。イタリアとの国境周辺の山中をドライブしていると突然遠くの岩山にしがみついているような小さな山村が見えたりする。距離的に近い海が果てしなく遠く感じるような、地理的に隔絶された村。魚など手に入りそうにないし、野菜や果物さえ作るのが困難なのではないかという急斜面。海辺ほど太陽と温度に恵まれない山間のこんな村の周辺で小粒のオリーブはやっと実をつけるのではないか。そんな想像をしたらなんともいじらしくて、"オリーブはリグーリア産"となんとなく心に決めているのだが、ここでは見つからなかった。

BIOのお店NATURALIAで小豆を見つけた。500グラムで€2.5・・って日本よりも安いじゃないか。ぜんざいとか欲しい季節だもの。餅やもち米はアジア系のお店へ行かないと見つからなそうだから、白米に片栗粉でも混ぜて潰して作ろう。どら焼きを作るのもいいね、と購入。

ランチはD'AQUIというお店へ。この辺りの名物ソッカ(SOCCA)というヒヨコ豆の粉を水で溶いて焼くクレープがある。具を乗せず、これ単品で食べるものなのだが、シンプルでいて美味しい。このお店ではソッカの生地をパンのように焼いて、ハンバーガーのバンにしている。ヴェジタリアンバーガーにはオリーブペースト、トマト、チーズ、ほうれんそう入りのオムレツが挟まれていた。サイドに揚げたポレンタ、食後にエスプレッソとレモンチェロのティラミスを。全てホームメイドの味で満足。

南仏の買い物を満喫した日の終わり、雨が降った。こちらに来てはじめてのことで、実に半年ぶりくらいの恵の雨だそうだ。


Michelina |MAIL