My life as a cat
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2010年03月30日(火) Ending

午後の静かな電車の中の出来事。

若いお母さんと幼稚園生くらいの子供二人が普通のトーンで会話をしていた。

「ママ、あれはなに? じゃぁ、あれは?」

そこに突然30代くらいの若い男が怒鳴って会話を遮った。

「静かにしろよ!!」

そしてその後数分にわたり母親にとんでもない言いがかりをつけはじめた。

「おまえが一緒になってしゃべってどうする?うるさい子供を黙らせるのがお前の仕事じゃないのか?お前のようなダメな母親に育てられる子供がかわいそうだよ。ろくな子になりやしないよ。しかし、お前の顔はすぐに離婚しそうな顔だよ。そのうち旦那に逃げられるだろうな、、、、」

顔をゆがませ、黙って俯くだけの母親。顔をこわばらせ沈黙した後わ〜んと泣き始めた子供の声が響き渡る。離婚しそうな顔って、、 、恋愛にすら縁のなさそうな顔で何を言うのかそう突っ込みたかったのはわたしだけではないだろう。無抵抗な弱者を一方的にやり込めるその根性の悪さに自分の中の正義感が疼き頭に血が昇った。しかし女をばかにしきった男に女のわたしがどう立ち向かえばいいのかうろたえた。

そこに一人のこれも30代くらいの背の大きいパリッとスーツを着た男性が立ち上がり、その男の前まで行き怒鳴りつけた。

「おいっ、オマエこそ黙れ!うるさいのはオマエだ。子供が泣いてるんだ。オマエは赤ちゃんが泣いてたらうるさいって言うのか。オマエの言ってること全てがおかしいだろ。母親に謝れ。」

この軟弱男はしばらく無駄な抵抗をしていたが、そのうちもうひとりの中年の男性も立ち上がり、
「オマエが悪い。謝れよ!」
と二人の男に捻じ伏せられ、声を上ずらせながら謝罪した。
「ごめんなさい。もう二度と言いません。」

ほっとした。東京は忙しく廻り続ける歯車のような暮らしの中で、自分さえ良ければいい、自分にさえ被害が及ばなければいい、人を思いやる余裕などない大人ばかりだと思っていた。この話の最後に救いがあってよかった。

アレンのバースデーはお互いに時間が取れず、カフェでケーキだけの小さなお祝いをした。アレンと同系の顔つきのウエイトレスが彼と話したそうに何度も水を継ぎに来ては彼の顔を覗き込む。こんなにアプローチされているのに彼は"thanks" と水のお礼を言うだけ。そのうち耐えかねて、彼女がわたしに笑いかける。
「もしかしたら彼とわたしは同国の出身じゃないかと思って。」
それでもアレンは素っ気なく彼女とは違う自分の出身国を答えるだけだった。彼女は愛らしい笑顔を微かに歪ませて去っていった。

シャイで男の子らしく、硬派なところに惚れていた。けれど、見ず知らずの女に簡単に素性を見せるないようにわたしにもなかなか心を開かなかった。それでも懸命にこじ開けて少しずつ心を許してくれるようになった。アレンは若くて希望に満ち溢れた男の子だと一緒にいるかも定かでない彼の未来に期待をした。それなのに今日は何かがおかしいと感じた。振り出しに戻ったような心の通わない会話に辟易した。
いつものように
"I'll see you on the weekend"
とハグをすると、
"I can't promise"
と言い残して去っていった。

そしてこれが彼にとって当分帰ってくることが出来ないだろう日本での最後の夜となった。


2010年03月21日(日) いつかいつか、きっといつか

















体の具合が悪くて冬眠中の熊のごとく眠り続けた一週間。たっぷり脂肪を蓄えてきたものの、さすがに手術当日身支度を整えようと起き上がり鏡を見るとげっそりやつれてぐんと老け込んでいた。会社には話すしかなかったけれど、妹の病気が治って晴れ晴れとした両親の元にわたしの悪い知らせはしたくなかった。一人暮らしはこういう時心細い。

元気だった先週末はアレンとお台場に行った。ゆりかもめに乗った思い出は数年前自分の病気のことで孤独で不安にひとりで知らない病院にドクターを訪ねたことくらいだった。アレンに手をひかれ、夕暮れ時の東京湾沿いをゆっくりゆっくり5駅分も歩いた。クレープに、トヨタのF1体験シアター、ごくごく普通のデートが灰色の思い出を虹色に塗り変えた。

楽しむだけ楽しんでいつか適当にさようならする関係と思っていたのに、最近彼のインテンションが変わってきているように感じて、その空気に押し流され気味だった。深入りされればされるほど無意識に何かを期待するようになってきていた。

しかし、楽しい時間をシェアすることは簡単だ。この辛い一週間、朦朧とする意識の中で思い浮かぶのは、ただの生理痛でも温かい手で背中やおなかをさすって辛い時に一緒に泣いてくれたマーヴの顔ばかりだった。

手術が終わるとアレンが待っていた。わたしの家に来て夕飯を作ってくれた。優しい言葉をかけるかわりの彼なりの愛情表現なのか。心身共に弱り果てたとき、彼の言葉の素っ気無さが骨身に堪えた。やっと素性の知れない彼と打ち解けてきてと思っていた矢先、この一週間でわたしの中で彼に対して一線が引かれた。いつもと同じ夜がきて、いつもと同じ朝に駅で仕事に向かう彼とハグをして別れる。もう彼について深く考えるのはやめた。いつか楽しい時間だけではなく、辛い時間もシェアしてる人、心の真髄を温めあえる人にもう一度めぐり合えたらと切に思った。


2010年03月06日(土) 冬のおわり

農園の冬の最後の収穫。桜島大根、ブロッコリー、サニーレタスなどの葉っぱ類は年中無休。ブロッコリーはあんかけの具やピーナッツ和えに、桜島大根は塩揉みしてナムルや炒飯に、葉っぱはバルサミコビネガーとオリーブオイルのドレッシングで。爪の間に土を詰まらせて作った野菜の味は格別。

週末はアレンと自堕落に過ごす。平日はひたすら忙しいから、夜遅くまでダラダラと料理をして映画を見て、あてもなく街を練り歩いて、他愛ない会話を交わす時間に心底安らぐ。わたしの胸の奥底にはパースの大きな空と海、呑み込まれてしまいそいな広大な自然が生き続けて、ここで生きていく心細さを彼が癒してくれる。

上野にはちらほらと桜が咲き始めた。春はすぐそこ。


Michelina |MAIL