読書記録

2016年09月28日(水) 冬虫夏草        梨木 香穂


『冬虫夏草』は『家守綺譚』の続編にあたるらしいが、残念なことに『家守綺譚』を読んでいないのだ。

 主人公は疏水に近い亡友(高堂)の生家の守りを託されている、駆け出しもの書きの綿貫征四郎だが、彼についてきて住み着いた愛犬ゴローの存在も大きい。
ゴローは征四郎に言わせると奇天烈な犬で、池に来た白サギを引きずり込もうとした河童と、それに怒ったサギが河童をつついたのを、ゴローが間に入って事なきを得たりもする。その河童を、山の奥の川に戻してやったりもする。
 ときどき、どこへともなく姿を消し、しばらくするとまた帰ってくるというおかしな犬である。
ところが、そのゴローが2か月も姿を消し、征四郎は不吉な予感をおぼえて気になって仕方がない。
 今回の物語は、征四郎が、友人の菌類研究者・南川や高堂の話から、ゴローがどうも鈴鹿山脈の最奥部・茨川にいるらしいと聞き、仕事もほっぽり出して探索に出かける話である。
 征四郎は、ゴローを捜し出すとともに、編集者の山内が教えてくれたイワナ夫婦が営む宿に泊まることも目的のひとつとなっていった。
 八風街道、惟喬親王、木地師など歴史上知られる事物も登場させながら、鈴鹿の奥へと征四郎は旅を続けて、いろんな人に会う。人に非ざるものにも会う。

そして面白いのは各章には 「彼岸花」「河原撫子」「キキョウ」などといったいろんな植物の名前がつけられ、そしてその植物が出てきて季節感もたっぷり感じられた。
読んでいくと主人公が旅する鈴鹿山一帯の水気の多い緑と土の感じや、いろいろな生き物の息吹が、読者にもじわっと感じられるようなそんな物語。

最後にはイワナの夫婦が営む宿にも泊まれたし、河童の少年にも会えたし、何よりゴローと再会できたことが本当に良かった。
てとも読後感のいいというか、すがすがしい物語だった。








2016年09月15日(木) カステリオーネの庭     中野 美代子



かつて北京の宮廷には、西洋各国からキリスト教の布教に来た宣教師が大勢仕えていた。かれらは様々な技術をもち、皇帝の命令に従って西洋趣味の美術品や機械を作った。
今も北京の西北に残る広大な離宮・円明園の一端に、不思議な西洋庭園の廃墟がある。

「この庭も噴水も、すべては朕のものだ」
清の乾隆帝に宮廷画家として仕えた、イタリア人宣教師ジュゼッペ・カスティリオーネ(中国名=郎世寧)。
かれが描いた数々の絵画と、皇帝の命により北京の離宮につくった西洋庭園。
その庭にかくされた秘密をさぐり、皇帝と宣教師の東西の相克を描いた物語。



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