読書記録

2013年05月18日(土) 眩談(げんだん)   京極 夏彦



怖くもそんなに気持ち悪くもないけれど、何気にイヤ〜な感じの8つの短編集。
この作者にすれば理屈っぽくもなく読みやすい物語だった。

☆便所の神様
昔の古い家のトイレとは言わない便所の話。
私の子ども時代に住んでいた便所のニオイを思い出してしまった。

☆歪み観音
ある日、街の看板とか電柱とかが歪んで見えた。
シャーペンも箸もぐにゃりと曲がり風呂の湯も盛り上がってみえた。
こんなに歪んで私は普通に暮らしていけるのだろうか。
もし、ドラマにするなら歪みは簡単に映像化できるだろうな。

☆見世物ばば
6年に一度の祭を敬太は楽しみにしていた。
そして6年前の祭のときに神かくしのように突然姿を消した同い年のとよちゃんのことを思い出した。
ほんとうに昔は神隠しなんてあったんだろうか。

☆もくちゃん
今では差別発言とかいわれるようになったけれど、昔はどこの町にも少々困った人というのがいたものだ。
肉体的なハンディは少ないけれど、それでもサポートなしでは通常の社会生活を送るには困難な人たち。
もくちゃんが同級生の亀山の額を押し付けて言った。
「もくちゃんは三人を殺した人殺しだ」
最後のオチは考えもしなかったなぁ。

☆シリミズさん
男と別れた勢いでバイトも辞めてしまったので経済的に困り実家に戻った。
古い大きな家だったが、何気に気味悪い家でシリミズさんという古い仏像のようなものに水をあげなければならなかった。
どう考えてもこの家には何かいるが、コワくはないがキモチワルイ、この微妙な感覚が気持ち悪い!


☆杜鵑乃湯(ほととぎすのゆ)
鄙びた温泉だと聞いてやってきたけれど、様子の違う4つのホテルが繋がっただけの変な建物だった。
マッサージを受けるため、顔のところに穴のあいた寝台に俯いたら年寄りが床に仰向けに寝ていた。
そして迷い込んだ三つ目の温泉はまるで私が殺した女の体液のような湯だった。
これも気持ち悪いお話だった。

☆けにし坂
父とのわだかまりを抱えたまま迎えた十三回忌の法要で訪れた寺の裏門を抜けたら坂があった。
門の左手にしゃがんでいた老婆に聞いたのは
「この坂登るとな、忘れていたことを思い出す。ゆっくり登ればゆっくり登る程、余計に思い出す」
わぁっっ〜〜

☆むかし塚
小学校に入って給食の時間が苦手でいつも居残りさせられていた。
はっきり覚えていないが…よしこ…という名のオンナの子がいつもいた。
そのよしこという女の子に読みたかった漫画の本を借りた。
この項は けにし坂の続きなのか…
古墳にやってきてよしこさんに返せなかった本を埋めた…のだ。
むかし塚には、無限の過去と無限の未来が埋まっている。
何て素晴らしいことだろう。
いい思い出だけ記憶に残し、嫌な過去は忘れ去れたら、どんなにいいだろうねえ。


絡みつくようなねっとり感があってどれも怖さというより生理的、心理的な嫌さを体験させられるようなお話ばかりで、それが
この作者のすごいところだと思う。

やっぱり私にはこの作者の本はよく分からん??



2013年05月05日(日) キサキの大仏               奥山 景布子

 天平時代のロイヤルファミリーが、
東大寺に大仏建立という稀有の大事業に挑んだ聖武天皇、それを支えた光明皇后の夫婦の物語。

好きで通っている歴史講座のおさらいのような物語だった。
講座では複都を作りたかった聖武天皇と、夫唱婦随ではあったけれど決して内助の功ではなかった光明皇后という見方をしていたけれど、この物語もそんな展開だった。
ただ光明皇后が夫である”我が君さま"である聖武天皇を深く愛していて、夫婦仲がとても円満な設定になっていた。
長屋王のことも安積皇子のことも決して藤原氏の陰謀などではなくて仕方のなかった出来事なのだ。
だから光明皇后は藤原一族を背負う立場にいても、ただただ愛する夫の悲願のために表に立つこともあったというのだ。

そして 聖武天皇の後に御位について孝謙天皇となった娘・安倍との母娘の葛藤も織り込んであった。

天平時代や大仏建立にまつわるこの時代の物語を数多く読んだが、やっぱり大好きだわ。



  我が背子と二人見ませばいくばくか この降る雪の嬉しからまし

       『万葉集』巻第八 藤原后、天皇に奉る御歌一首











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