読書記録

2005年10月18日(火) 東京タワー       江國 香織


 共に年上の女性と交際している大学生の透と耕二の物語
その相手である詩史と喜美子には、もう私くらいの年齢になればうらやましいといった感情さえも湧いてこない
ただ男も女も何故か自分よりも年上の異性にあこがれるというか、実際に恋をしてしまうこともあるというだけのことのように私には思える
透は詩史ひとりを恋しているだけだが、耕二は同年代の由利という彼女もいる
私は耕二のような男性は苦手だ

東京タワーというタイトルと江國香織という作者の作品ということで構えて、そして期待したけれど・・・というくらいの感想か
ただ 私の遥かに若いころの思いとしては 窓を開けたら東京タワーが見える住まいというのはかなりな憧れだった
東京タワーが見える、それだけで恋ができる・・なんて馬鹿げた思いもあった

寒い夜だ。吐く息が白い。この坂をのぼるとき、振り向くとそこには東京タワーがみえる。いつも。真正面に。夜の東京タワーはやわらかな灯りに縁どられ、それ自体が発光しているようにみえる。まっすぐな身体で、夜の空にすっくと立って。



2005年10月09日(日) 桜姫           近藤 史恵

十五年前、大物歌舞伎役者の跡取りとして将来を嘱望されていた少年・市村音也が幼くして死亡した。それ以後、音也の妹・笙子は、自らの手で兄を絞め殺す生々しい夢に苦しめられるようになる。自分が兄を殺してしまったのではないだろうか―。誰にも言えない疑惑を抱えて成長した笙子の前に、かつて音也の親友だったという若手歌舞伎役者・市川銀京が現れた。音也の死の真相を探る銀京に、笙子は激しい恋心を抱くようになるが―。梨園を舞台に繰り広げられる痛切な愛憎劇。


結末に驚いた

「彼は、生まれたとき『性未分化症』 だったそうです。基本的に性未分化症の子どもも、男か女かどちらかとして届けを出します。だいたい、どちらかに身体は傾いていることが多いですから、どちらかの傾いた方へ。けれども、朔二郎さんは歌舞伎役者だ。できれば、男として届けを出したい、そう思うのも無理はないでしょう」
音也と笙子は同一人物だった。
音也くんは、死んでいて、そうして生きている。
銀京の記憶も正しかったことになる。

私は物語の構想もさることながら、それぞれの家族とうまく生きられない銀京と笙子の存在が気になった。
銀京の言葉、
「母は、自分が苦労した分、ぼくのことを支配する権利があると思いこんでいるらしい。」
「ぼくは最後まで母のことを理解できなかった。母が見せる愛情が不快だった。」

どうしてもうまく人間関係を築けない間柄がある。そしてそれが家族ということもある。



人はどのくらいかなわぬ思いを抱き続けることができるのだろうか。
どんなに思い続けても、それが無理な願いである以上、どんな人でもいつかは疲れ果ててしまうのではないだろうか。
そうして、疲れることは、許されることと似ているのではないだろうか。

私も許されたいと思う日々を生きている・・・





2005年10月06日(木) 薬子の京         三枝 和子

 平城京から平安京の頃に起こった「薬子の乱」の主人公 

時代背景としては以前 読んだ「橘 三千代」 と 「山河寂寥」の中間に当たる
歴史の事実としてはほとんどが男性が主人公になっているが、私は当たり前のこととして共に生きたであろう女性の物語が好きだ
自分に繋がる者を帝位に付かせるためには、または政に参加するために帝の地位を血で血を洗うようにして奪い合う
今の時代もかなり性が氾濫しているように思うけれど、この時代はとにもかくにも女の子なら天皇の子を産むこと、そして男子なら天皇の子を産んでくれる女の縁者になること
そして政に参加すること
先の郵政民営化解散と言われた選挙のときに小泉さんが、織田信長の時代に比べたら今の状況なんて生ぬるいと言ったけれど、この古の時代もかなりの凄みがある
政権をものにしようと、天皇や皇太子を廃太子にして些細なことを理由にして表舞台から失脚させるといったいろんな陰謀謀略をめぐらせる

私は主人公の薬子よりも薬子の兄、仲成の事実上の妻であり家刀自でもある『真都』の存在が好きだ
状況判断や気配りがなかなかのものだ
そして 元服前に東大寺で出家した薬子の息子、文麿の存在もすばらしい
舞台の脇役というか、主人公を影で支えたり目立たないところでキラリと光る人間でいたい・・と強く思う


雨隠り(あまごもり)
情(こころ)いぶせみ
出(い)で見れば
春日の山は
色づきにけり
(雨に降りこめられてじっとこもっていて、心がどうにも晴れやらないので出てみると、春日山はすっかり紅葉して色づいていた) 

              大伴 家持
                平八年丙子秋九月に作れるなり)


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