読書記録

1998年07月08日(水) 天北原野        三浦 綾子


 北海道ハマベツ。貧しいこの土地で生まれ育った美しい少女貴乃と、小学校校長の息子池上孝介は、互いに愛し合い、結婚の約束を結んでいた。しかし製材所の息子完治の恐ろしいたくらみによって、孝介は遠い樺太へと旅立ち、残された貴乃は完治に無理矢理に犯される。貴乃はその心の痛手と、樺太に渡った孝介から音信がないことに絶望し、死んだ気で完治に嫁ぐ。
だが、孝介が樺太で水産業界の大物として成功し、ハマベツから稚内に移っていた貴乃一家の前に姿を見せた時、貴乃の心は揺れる。そして、孝介が完治の妹あき子に求婚し、結婚して以来、孝介と貴乃は再び心の奥底で深く魅かれ合うのである。ハマベツ小学校での教え子であったあき子が、貴乃を奪った憎い完治の妹であるのに孝介が求婚したのは、貴乃の身内として貴乃の力になりたいという心のうずきと貴乃への思慕があったからだ。だが、そのことがあき子に孤独と苦しみを感じさせ、家に出入りするロシアの青年イワンとの不倫の恋に走らせ、京二という子どもさえ孕ませることになったのみならず、結局はあき子を自殺にまで追いこむことになる。

あき子がイワンの子を孕んだことを知った時、貴乃は、その元の原因が夫の完治にあると考え、孝介をなぐさめる。
「孝介さん、誰かが自分勝手なことをすると、必ずほかの人が、重い十字架を負わなければならないのね」
それに対して、孝介は
「まあそうだね。しかし、お互いに十字架を負わせてもいるのじゃないのかな。生きてるってことは、結局は人を傷つけていることになる。人を一度も傷つけずに生きてる人間なんてありはしないからね」と言う。
また、孝介があき子の遺書を読んだ時、
「(自分が貴乃に対して、変わらぬ想いを持ちつづけたことが、あき子を殺したのだ)
一人の人を愛しつづけるということは、孝介にとっては、真実な美しい生き方のつもりだった。が、その愛の故に、妻のあき子を殺してしまったのだ」


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