ことばとこたまてばこ
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2006年08月31日(木) 墓守りの幼子ら


幼い私たちははち切れんばかりの楽しげな情感に満ちてた、
周りを囲む青い山脈に喰われんとばかりの凹凸感もまた染み入ってた。

三軒向かいの家に住まう老婆が愛でている黒猫の流す血と等しく、
生々しくて嘘のような赤に染まる花があちらこちらで咲いてた。


咲き乱れて黄金色のすすきが風に揺れていた。


幼い私たち、あの誰か知らぬけれども大切な人の、墓。
その墓を守ろうとして、何から守ろうと、風神から守ろうとしてた。
そのためにみたらし団子の甘辛いタレでべたべたになった指を懸命に舐めて清めようとしていた。

墓が揺れている。

墓が揺れている。

がつる がつる がつる がつる がつる がつる がつる

まるで野蛮な風が墓を壊さんとばかりに吹きつけてくる。

幼い私たち、あの誰か知らぬけれども大切な人の、墓を数人で体ごとぶつかり風神より守った。
砂塵が私たちの顔面にぶつかる。


がつる がつる がつる がつる


がつる がつる がつる がつる がつる


おかあさん、と私たちの内のひとりが泣いて吼えた。
こわいよ、と私たちの内のふたりが泣いて吼えた。
いや、と私達のうちのさんにんが泣いて吼えた。


あーーーーーーーーーーーーーー、と私たちみんなが泣いて吼えた。



がつる がつる がつる がつる がつる

がつる がつる がつる がつる


がつる

がつる がつる がつる がつる がつる がつる がつるがつるがつるがつる
がつるがつるがつるがつるがつるがつるがつるがつるがつるがつる






目覚めると
眼にも鮮やかな黄金色を身にまとった大名行列が通っていた。
まったく白く遠い青空に浮かぶ雲すらも行列に従っていた。


青くつらなる山脈のてっぺんへ向いて。



私たちは雄々しく一本そびえる木の下、
おかあさんの迎えを


待った。


2006年08月30日(水) 静者と姦者

顔面の剥がれた木彫りの地蔵尊、月光にさらされて小指をこつこつひきつらせた。
ぎりぬるとまんまるく眼を見開いた般若、潮にさらされてげつげつと笑いを漏らした。

呼吸を静かに整えている、その静かな者ら。




瑞々しい青色のしゃりしゃり坊主頭の童、色様々に変化する変わり玉に眼を見張って。
土埃にまみれて歯と眼だけがぎとぎと白く輝く男、強い酒をくらって溜飲を下げようと。

呼吸を懸命に行っている、その姦しい者ら。


2006年08月26日(土) 怪しげなハンバーガーを食して半馬鹿

ニボンのハンバーガーでも食するか、と鮮血と黄疸がイメージカラーの店に入って。

赤紫とどどめ色のまだらに染まった不気味なイメージキャラクターが
分厚い唇をぬめぬめと濡らして妙に可愛らしい仕草でもって、
「これ しはつばーい べらりんまいょ」カタコトの不明瞭な怪しい声で宣伝。

しはつばーい、と言われたハンバーガーをとりあえず注文。
ごわごわとした気色悪い感触の包み紙をひたりと開くと、数十本の髪がばらばら落ちた。

数分かけて髪を取り除きながらハンバーガーを口にする。
すると使い古された避妊具の磯臭いゴムの味が口内に広がり、
何者にも望まれず生まれてきた黄色い体液をたれ流にする、
どたん どたん どたんと震える太った芋虫の肉が密に詰まっている感触。

あはは、それでも化学調味料が非常に絶妙なさじ加減で調整されているもんだから、あははははは、とっても、美味いわ。あははははははははは。美味い?わ。

このハンバーガーは、とっても美味しい、の。そう。そうよ。たぶん、そうなのよ。


2006年08月25日(金) エレクトリック心中エレクト

何処に僕と彼女は居たのか。
思いだせなかった。彼女も記憶が薄れていた。
僕らは懸命に思いだそうとしていた。


思いだせない、たしか、あの時ついに知ったはずだ、風の歌。
思いだせない、たしか、感じたはずだ、むせかえる緑の臭い。
思いだせない、たしかに、聴いたはずだ、視線のぶつかる音。
思いだせない、たしかに、痛かったはずだ、あばら骨の疼き。
思いだせない、たしかに、ぬくかったはず、握る手の暖かみ。


思いだせ、思いだせ、身体の隅々にまで神経を張り巡らせて、思いだせ、思いだせ!



白が弾けた。


そうだ、あの沼地。
底知れぬ暗い緑の沼地、そこの奥まった所の、そうだ、
此処にかつて僕らは居たのだった。

クチクチキと硬い光が差し込めていた。
やわらかく光に暖まったベンチに腰かけ、
僕らは心地よくまどろみ、しゅるしゅる
目の前を飛びまわるトンボをただ眺めてた。


吐き気を催す腐った沼の臭いは、まるで僕らにおあつらえ向きだ、と笑ったな。
僕らが沼へ足を踏み入れたあと、魚がぱしゃりと跳ねた水しぶき、浴びてたな。
ぴしゃりと静まりかえった沼に浮かぶ、落木とぼんくらな僕らぶぶぶぶぶぶぶ。


僕らが進んで盲いった風景の中に見えるもの。

ぬめぬめと艶かしい情感の軌跡が、
天空の極みより地底の果てにまで、
まっすぐのいっぽん、たらり、と。


2006年08月24日(木) 誕生してきたというのに諦めるなんてそんなのはいやだ

蛍光灯の寒々しい光のみに照らされて生き続けてなお馥郁たる芳香を放ち続ける花は、
全てを創造した超越者の視線と等しく容易い諦めというものを知らない。


2006年08月23日(水) 最高の食事の最高のデザート

人の視線?ははあ、はは、おれってば音無し子だーら、ネッ!
音による音のための迷惑なんて知らねえんだからね、はははは、しょーがねーってもんさー!
と理屈づけながら美味なる讃岐うどんをつるつるすすって、ああ、なんだ、この美味さは!

「うんめぇえええ!」

あひひひひ、遥か遠い家々の軒先にも届きそうな喉も破ける絶叫。

うどんをむさぼり終えて顔を上げれば、
たくさんのお客の眉をひそめた奇異の眼差しが無数に刺してくるけれども、
そンなことよりも店主のおやじさんと眼が合い親指を立てて
「うまかった!」まったくたどたどしい発音で賛辞の声浴びせると
おやじさんの恥ずかしそうな笑顔、
そしておそらく「そうだろう、うまいだろう」と言い、太い親指びしりと真上に力強く。


あひひひひひ、身も心も満ち足りる、なによりなにより素晴らしいデザート。


2006年08月22日(火) そんな二人の結末はどうしようもないエクスタシー

うらぶれた村でおんなとおとこは手をにぎりあっていた。
おんなの発するにおいはまるで放射能のようで
おとこはまるで被爆されるかのように恐れてて。

駅を出て申し訳程度の商店街を通りぬけ、
何十分か歩き続けてたどりついたうらぶれた村のある馬小屋で、
藁にまみれながらおんなとおとこは服を脱いでいった。
情を挟まずにおとこを見下ろすおんなの眼差しは、
おとこの内部の男という性を見据えているかのよう。


おんなが 何か しゃべった。
唾液に濡れているおんなの口が 何か 声を発した。
音無しのおとこは凝視する濡れているおんなの口を。
おんなの口の奥では赤黒い舌がまたぬらりと見える。

やわらかく口は動きつづけている
「あ」 口は半月形となる
なめらかに口は動いていった
「ん」 口は薄く微笑む形となる

おとこの眼は おんなの口へ まっすぐに注いで
言葉を解体して言葉を発見して言葉を見つけて言葉を思考してそこにある言葉を極めようとした。

しかし途中で口から言葉が追えなくなった。
追えなくなってもおんなの口は止まらなかった。
おとこは止めてもらって再度どこから話してもらうか乞う術を知らなかった。

言葉を追うことを放棄したおとこの眼、艶かしく動くおんなの口を眺めて 眺めた。
おんなは飽きることなくしゃべり続けている。
時折、渇いた唇を潤すために舌をちろり、ちろりと出していた。

あの様子はまるで性器のようだ と 感じていた。
言葉を滑らかにするために濡らしている あの様子はまるで顔にある性器のようだ。

性器が言葉を発しているという様の不条理さ加減において おとこは屹立していた。 

おんなの口はおとこの眼に犯されていた。
おんなもまたおとこの浴びせかけるような激情の視線に 欲情していた。


そんな二人の結末はどうしようもないエクスタシー。
そんな二人の結末はどうしようもないエクスタシー。
そんな二人の結末はどうしようもないエクスタシー。


2006年08月21日(月) ぬらぬらと野蛮などうしようもないちから

何千何万もの黄金色が
揺れる丘のてっぺん
その中で最もまばゆい向日葵と
オトナになった私はここちよくまどろんでた

私が虫歯だらけの口を
おおきくあけてあくび
そしてその時!
全ての向日葵がごんごん
輝く陽光に全身をむける
そしてその瞬間!

しゅんしゅんしゅんかんに甦った、幼い頃の記憶

あのジャングルジムのてっぺんから
幼い私は手にした巨大なスイカを
思いきり地上へ向けてふりおとしてた

ぬらぬらと野蛮な
どうしようもない
ちからが充足して
完熟して真実赤い
スイカの夥しい汁
どくどくどくどく
エクスタシーの色
ぬらぬらと凶暴な
どうしようもない
ちからが充足して


薄い笑み漏れてた
薄い笑みが漏れてたわ
とっても気持ちの良い
びりびりに痺れるほどの
ひどいひどい絶頂をまざまざ味わってた
ジャングルジムのてっぺんで

鮮やかな赤を凝視しながら
あの時に幼い私はどうしようもない
ちから を ゆるやかに知り つつあったのだわ


向日葵の時代も終わりを告げ始めて
向日葵も枯れ始めた季節の今
突然目の前に鳩が落下した
首の骨を折ったようだわ
まるで絵の具のような 
うそのような血がたらふると口元から流れてた


幼い私はあれからどうしたんだろう
きれいにすっぱりと覚えてない
どうも空虚な心持ちでいた よう な

はかなく白く透明な薄い紙に
全身をくまなく
まんべんなく
残さず

包まれているようよ

ああ覚いだしたわ
ぬらぬらと野蛮な
どうしようもない
ちから を



ああ覚いだしたわ
ぬらぬらと凶暴な
どうしようもない
ちから を


2006年08月20日(日) おそろしい火がまるで麗しい花のように



ぱだん 

ぱぢん ぱがん

 ぱぐん


ソース焼きそばの匂い
かき氷の冷たさ

群衆一斉の嘆息 空に昇って

幼子の嬌声 父母の笑い
爺 婆 しわくちゃ増して


どぐん 

   がぐん


昇って昇る 弾けて弾ける 火 火 火 火
空を彩る火 弾ける光の強さ増した

火 火火 火 火火火火 火火火火火火火火火火火火火火火火
火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火
火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火

火火火火 火火火火火 火 火 火火火火火



火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火 火火火火火火 火    火  火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火



圧倒の群衆 ひひひ 呆れたような笑い ひひひひひひひ 漏らして

恐ろしい はずの あの火

こんなにも心が弾む 
こんなにも眼が潤う
こんなにこんなに こんなにも!


浴衣を羽織っているわたし、
ぬらぬらする汗と
顔半分を覆う火傷の跡、
うちわでするりと隠しながら


おそろしい火が花のように咲き乱れる夜空へ顔を向けて。


2006年08月03日(木) ぞぞぞっと夏がやってくる

例年よりすこぶる遅い夏という季節の第一歩をこの身に浴びている。

にわにわと全身から汗がにじむ。づるふふと汗の臭い。へりんへりと粘つく汗の跡。
ちきりちきりとハッキリクッキリあんまりにも鮮やかな陽光はすべてが薄い刃のよう。

まぶこを閉じて太陽へ顔を向ける。
まちがいのない、疑う余地もない、無情の灼熱の塊が丸くぽっかり見える。
まったく透明でそこに存在するはずがない、と思わしめるほど極限の白で。


気づかぬか、後ろを見ろ。

灼熱の塊は眩く白い光で確実にお前へと向かって浸食しているぞ。
無謀であろうとも心躍らせて逃げたまえ、
もしくは果敢に心躍らせて立ち向かいたまえ。



走って走ってる、灼熱の塊が。

走っては知ってる、灼熱の塊の心地よさと恐ろしさ。

走って走って走って走って走って、夏という夏の季節の清れつな風に背中を押されて。


走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って。


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