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2005年01月05日(水) 孤独   嵬

あれからどうしたかしら・・・

すでに客も引き、あらかた片付け終えた店内をぼんやり眺めながら、ジェニーはメンソール煙草を燻らせていた。
時刻は早朝と表現するに相応しい時間に差しかかろうとしていた。あと1時間あまりもすれば始発が動き出すだろう。

まいったわね・・・

別に隠していた訳じゃない。
言うタイミングがなかっただけ。
どん底で足掻いている人間に、自分がカワイイ相手に言い寄られてるなんて話、できっこない。
今日も“まだ”だと思っていたのに・・・ふたりはカチ合ってしまった。
千夜の信頼を失くしてしまったかもしれない。
そんなものがあれば、の話だけど。
ロミオが千夜を追って行ってくれてホッとした。

ジェニーは深々と煙を吐き出した。
ほの暗い店内は静まり返り、灯りの届かない隅っこは底なしの闇のように見える。
気の利いたインテリア性もなく、ただ狭いだけの、地下に存在するこの店は、それでもジェニーにとって大切な城だった。
がむしゃらに働いて、自分ひとりの手でカタチにした唯一のもの。
バブルと自身のキャラの物珍しさに一時は結構繁盛したが、今は常連だけが時々顔を出してくれる程度だ。
ここ数年は自転車操業の状態で、毎月の支払いは綱渡りをする心境だ。

気がつけばとっくに四十を超え、最近は体力の衰えをヒシヒシと感じる。
長年の夜の仕事と厚塗りの化粧のせいで、肌は年齢以上にボロボロだ。
もともと美しい訳じゃない。
世間一般の幸せも望んじゃいない。
ただこのまま年老いてゆくことに、時折、恐怖に近い感情を抱いてしまう。

この先ずっと独りぽっちで生きてゆくのかしら

と・・・。

自分で選んだ道だ。
後悔はしていない。
ただ景気の低迷は続き、自分は衰えてゆく。
“確かなものが無い”ということに、これほど怯えるとは思ってもいなかった。

今は懐いてくれているロミオも、いつかは去ってゆくだろう。
これまでの相手がそうであったように。
若くて、美しくて、前途洋々の彼を道づれにしようと思うほど傲慢じゃない。
きっともっとずっと相応しい相手が現れる。
彼に想われて疎ましく思う男なんていないだろう。

千夜だって普通に幸せになれるはずだ。
世間に評価されるだけの仕事を持っていて、そこそこイイ女なんだから。
ちょっと頑固でヘソ曲がりだけど、彼女の良さを解ってくれ男(ひと)さえ現れれば、苦しい現在(いま)のような状況さえ、懐かしいと笑う日が来るだろう。
そうなれば、もうアタシなんて必要なくなる。

店は?
老いさらばえて、誰に見向きもされなくなっても、これさえあれば生きてゆけると、心の拠りどころにできるだろうか?
手放すのは今すぐでも早くないくらいだ。
売上増なんて見込めようもない。
田舎でひとり細々と暮らしている母親のことも気がかりだし。

そろそろ潮時かもね・・・

なにもかも。
すべて。

いい機会かもしれない・・・ジェニーはそう思っていた。


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