あたたかなおうち



 万年筆

プレゼントは大抵、当日まで待てずに渡してしまう。

開けて、開けて
包みをほどく祐ちゃんの姿を、
私はわくわくしながら眺める。

細長いケースの中にあるのは
名前入りの、マリンブルー色の万年筆。


あと3日で祐ちゃんは26歳になる。
年の差はまた5つになる。

2005年04月30日(土)



 ふたり

私が歯を磨きに行くと、祐ちゃんもつられてやってくる。

前面所の鏡に、歯ブラシをくわえた二人の姿が映る。
祐ちゃんと私が一緒にいる様子を見ることは
そういえばあまりなくて
歯を磨きながら私は無心で鏡に見入ってしまう。


いい男といい女がいるね
祐ちゃんが私に気づいて笑う。

私も笑う。
鏡の中の二人が自然なのが嬉しい。

2005年04月26日(火)



 金曜日

金曜日の夜。
先生から、大学生の女の子に戻る。

きつく結った髪をほどいて
久しぶりに指輪をはめて
私は大きく伸びをする。

すぐに玄関のチャイムが鳴る。
急いでドアを開けると
お土産をたくさん持った祐ちゃんが立っている。


2005年04月16日(土)



 ちから

やっぱり、先生方はすごい。
実習に行くと自分の無力さを痛感する。


祐ちゃん
布団の中で祐ちゃんに問いかける。
いつものように、手をつないで並びながら。
私が先生になれなかったら、養ってくれる?
祐ちゃんはふわりと笑って、こっちを向く。
養ってあげるよ。華のひとりやふたり
祐ちゃんの体温が私を包む。

いやいや、ひとりだよー
笑いながら、私はほっとする。

その答えが、どれだけ私を癒し、力になっているか
きっと祐ちゃんは知らない。


大丈夫、明日も頑張ろう。


2005年04月13日(水)



 月日

保とうとするのではなくて
気づいたらこんなに月日が経っていた。


そう、
祐ちゃんとの日々は、そんな感じ。

2005年04月12日(火)



 

桜がきれいだから
自転車で近所のパスタ屋に行こうと提案する。


休みの日は二人で昼過ぎまでごろごろする。
のんびりと始まる一日。
まるで貯蓄していたように
時間がたっぷりと、のんびりと流れる。


時間の速さは、無意識に自分で決めているのかもしれない。


なんでもない話をしながら
二人乗りした自転車で、桜並木を通るとき
満開に咲き乱れる桜の花の美しさに
思わず息を呑み、二人とも言葉を失う。


2005年04月10日(日)



 布団

華。こっち向いて
布団の中で祐ちゃんに抱きしめられる。

大丈夫だよ、ずっと俺がついてるから
祐ちゃんの胸に顔をうずめた格好で
頭の上から穏やかな声が聞こえる。

疲れたら俺が癒してあげるから
うん
絶対離さないから
うん
髪をなでてくれる手が心地よくて
私は次第に眠りに落ちていく。
祐ちゃんの声が遠くなる。

華は、俺の人生の一部なんだよ

2005年04月06日(水)



 片付け

私の精神状態と、部屋の汚さは比例する。


家に帰ると、部屋が片付いていることに気がつく。
テーブルの上には、見慣れた字の置手紙がある。

ああ、やられた、と思う。
私のことを知り尽くした、祐ちゃんのサポート。


心が軽くなるのがわかる。
大丈夫。
私はまだ、頑張れる。


2005年04月05日(火)



 コンビニ

徒歩1分の距離にコンビニがある。

次の日が休日の夜に、
祐ちゃんとコンビニに行くのが好きだ。
素敵な夜更かしをするために
お酒だのお菓子だのを買い込む。
まるで遠足の前夜のように。
華、重いでしょ
かごを持つのは、途中からいつも祐ちゃんになる。


どうせ半分も食べないうちに、私も祐ちゃんも眠ってしまう。
そんなことはわかっているけれど
かごはいつもいっぱいになる。

大きな袋の端を、片方ずつ持って、
わくわくしながら夜道を歩く。


2005年04月02日(土)



 2年目

温かな気配を感じて目が覚めた。

寝ぼけながら、
祐ちゃんの大きな手が頬に触れるのを感じる。
そのままほんの少しうとうとしたすきに
祐ちゃんはドアのほうに歩いていってしまう。
私は飛び起きて急いで追いかける。


振り向いた祐ちゃんの、ネクタイをきちんと直す。
いってらっしゃい
よく見えない目を細めて言う。
祐ちゃんは笑って、
私の頭をくしゃくしゃと優しくなでる。

いってきます
ドアの向こうの光がまぶしい。

今日から祐ちゃんは、教師生活2年目。

2005年04月01日(金)
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