ひとりごと
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私たちの葡萄 2005年08月30日(火)

10日ほど前から小鳥たちが来ていた。
ヒヨドリやシジュウカラたちが蔓にぶら下がって
少しだけ実った葡萄の熟し加減を毎日見ていた。
それが昨日、ついに一粒をヒヨドリが食べたのだ。
もうおいしい?
やっと収穫のときがきたようだ。

ネオ・マスカット。
家を覆い尽くしそうなほどに蔓が伸びて、5年目の今年、やっと数房の実をつけた。
ある朝気がついたら鳥に全部食べられていた、なんてことにならないうちに
大切な葡萄の房を穫り入れることにした。

ベランダから手を伸ばしてひと房を切りとった。
さらに身を乗り出して蔓を手繰り寄せてひと房とった。
そしてもう少し下のほうにもうひと房が見えた。
針金ハンガーで蔓を引っ張ったら、葡萄の房だけ庭に落ちてしまった。
庭に下りてその3房目を拾った。
次は高枝切りバサミで軒下に下がっていた4房目をとった。
そして5房目。
これはヒヨドリが毎日楽しみにしていた葡萄だ。
明日の朝、がっかりしたらかわいそうなので、とらずに残しておいた。
初めての収穫、こんな立派な葡萄が4房もとれたら十分だ!

手が届かなかったので、摘果もろくにできず、大きな実の間に
待ち針の頭のような小さい実がいくつもついていた。
それがかわいかった。
袋かけもできなかったので黄緑色の実は葉や茎にすれ、
小鳥につつかれて傷だらけになってしまっていた。
でも傷から覗く透明な実は瑞々しくておいしそうだった。
すぐに食べたくなった。
薄い皮はつるんとむけた。
したたるような淡い翡翠色の実を口に入れた。
爽やかなマスカットの香り。
甘くて酸っぱくて、ちょっと渋かった。
ひとつだけ種が入っていた。
おいしくて嬉しかった。
私の葡萄は、ちゃんとほんとに葡萄だった。

タバコを吸いに庭に出るたびに、夫も見上げて気にしていたのだ。
きっと収穫を喜んでくれるだろう。
一緒に食べよう。
ジュジュとココにも分けよう。

ほんの数房の実りだけれど、幸せで胸がいっぱいになった。
実りの秋がやってきた。


恵ちゃんの百合 2005年08月24日(水)

夕方の道を自転車で走りながら
恵ちゃんのことをずっと思い出していた。
拾った日のこと、とってもかわいかったこと、
美しく成長して幸せに暮らしていること…。
なぜこんなに恵ちゃんのことばかり浮かぶのかと思ったら、
そうだ、駐車場にあの百合が咲いているのを見たからだ。

子猫の恵ちゃんをりきさんに託したとき
りきさんに高砂百合の一株をいただいた。
それから私にとって、この高砂百合は「恵ちゃんの百合」なのだ。
車のない我が家の駐車場に植えた恵ちゃんの百合は
しっかりと根付いて花を咲かせ、種を散らした。
数株に増えた百合は、今日、2年目の花を見せてくれた。
すんなりと伸ばした白い首を折り曲げ、軽くうつむいて咲いている。
いくつもいくつも清楚な花を風に揺らしている。
こんな青い黄昏時には、なおいっそう美しく見える。

もうすぐ恵ちゃんと出会った9月がやってくる。
恵ちゃんのことを思い出したのは、風があの時と同じような
秋色に染まってきたからなのかもしれない。


姉妹でチャット 2005年08月23日(火)

この頃、私たち姉妹は、電話でもメールでもなく、
インターネット内で飼っている動物を使って会話することがある。

「Livly(リヴリー)」と言うこのサービスは、
元々は私が1年半ほど前に、偶然ネットサーフィンしていて
見つけたものだった。
10種類以上いる架空の動物(リヴリー)の1種類を選び、
名前をつけて、ネット内に自分の島を持ってそこで育成していく。
ただ餌を与えて育てるだけでなく、この動物はほかのいろいろな島や公園に行って
ほかのリヴリーと会話したり、成長していくにしたがって覚えた技を使って遊んだりする。
リヴリーは餌によって色や形が変わったりして、それも楽しみだったりする。

こんな子どもっぽいことをしているのが恥ずかしくて、ひとりでこっそり楽しんでいたのだけれど
先月、とうとう妹たちに教えてしまった。
すぐ下の妹と、一番下の妹は、すぐにそれぞれの動物を飼い始めた。
(真ん中の妹は仕事でしかパソコンは使わないらしい)
インターネット大好きな一番下の妹は、有料の会員にもなって
島を個性的に飾り立てたり、特別な餌を手に入れて楽しんでいる。
すぐ下の妹は、姪たちと一緒になって遊んでいるらしい。

動物たちの顔をした妹たちが、私の島を訪れたり、
私のほうから妹たちの島を訪れて、そこで会話をしたりしている。
相手がオンラインではないときには、伝言板にメッセージを残している。
電話よりもまだるっこしいけれど、押し付けがましくなく、
メールほど機能的ではないけれど、用がなくても話せる気楽さ。
そして動物たちを使って会話するこの童話のような雰囲気が楽しい。
3匹が集まっている姿はかわいいと思う。

誰かが旅行などで留守にするときには、残っている人が餌の世話をしたり、
フンを片付けたりする。
そうでないときでも、自分がログインしたときには、ほかの姉妹たちの島を覗いては
リヴリーの体調を見たり、島の変化を見て楽しんだりしている。
みんなで成長を見守るペットを飼っているような感じがする。
姪たちもすっかり気に入ってしまったらしい。

もしかして、こんな私たちはオタク姉妹なのかしら?
でもこんなコミュニケーションのとり方があってもいいのよね。
おかげで前より姉妹の会話が増えたような…。
もし、ほかにもリヴリーを飼っていらっしゃる方があったら教えてくださいね〜。


「Livly Island」はここです。


スズムシの思い出 2005年08月22日(月)

もうすぐで夕食が終わるというとき、電話が鳴った。
出てみると、すぐ下の妹だった。
あわてた様子に「食事中だからあとでね」の言葉を言えないまま話を聞いた。
「この前もらったスズムシなんだけれど、土は特別な土なの?」と妹。
「ううん、普通の土でいいのよ。お庭の土でも大丈夫。」と答えた。

土曜日、妹と姪たちがお祭りに来たときに、
うちのスズムシを4匹分けてあげた。
念願のスズムシを喜んで大切に抱えて持って帰った姪だったけれど、
案の定、一度だけ車の中でひっくり返してしまったらしい。
そのときに餌が土にこぼれて、カビが生えてきてしまった。
それで新しい土を入れたいのだと言う。

「お庭の土を入れるなら、虫やばい菌がいるかもしれないから、
 ちょっと電子レンジにかけるといいよ。」と付け加えた。
「ありがとう!またなにかあったら教えてね。」と妹は電話を切った。

食卓に戻って、食事中の夫に電話の話をした。
「そうか〜、土を電子レンジにかけるのか。」と夫は感心したように言った。
虫が苦手な彼は飼ったこともないのだと言う。
「小学生の頃、最初にスズムシを飼ったときには、母に土を炒めてもらったな。」
と、私は思い出して言った。
「そうか。お母さん、土を炒めてくれたか。」
「うん、中華鍋でジャッジャッとチャーハンみたいにね。」
そのときのことを思い出して夫に話した。

たしか小学校4年のときだった。
虫好きのクラスの男の子がある日の「おしまいの会」で手をあげて言った。
「うちでスズムシがたくさん孵ったので、ほしい人がいたらあげます。」
スズムシ!
とってもほしかった。
でも引っ込み思案でおとなしい私は学級会で手を上げることなんてできなかった。
ましてや男の子と話すなんて、今まで一度もしたことがなかったのだ。
結局、誰も名乗り出ることはなく、男の子は寂しそうに席に座った。

「私ね、どうしてもスズムシがほしくてほしくて、それで勇気を出したんだ。」
「どうしても虫がほしかったんか。」と夫は笑いながら聞いてくれた。
「そう、だからね、掃除のあと思い切って『スズムシくれる?』って言ったのよ。」

本当にあのときの勇気は一世一代。
初めて自分から男の子に声をかけたのだった。
彼の嬉しそうな笑顔をよく覚えている。
そして次の日、紙袋の中に、まだ幼いスズムシをたくさん入れて持ってきてくれたのだった。
私は嬉しくて胸がいっぱいになった。

その頃、家を建て直している最中で、私たち一家7人は
電車で30分ほどの郊外の社宅に仮住まいをしていた。
妹と一緒に帰る電車の中で、袋の口をそっと開いては中のスズムシの様子を確かめた。
華奢な触覚や足が動いているのを見て、わくわくとしたものだった。

「その日学校の図書館でね、スズムシの飼い方を調べてから帰ったのよ。
 そこに、土を消毒のために過熱するようにって書いてあったのよね。
 母はおもしろがって庭の土をすくって炒めてくれたのよ。」
そのときの風景、台所の様子は今でも目に焼きついている。
新聞に広げた土を何度も触って、熱が冷めるのを待っていたのだったっけ。
やがて土をプラスチックのケースに入れ、お決まりのナスとキュウリ、煮干を入れ、
お待ちかねのスズムシたちを、新居に移した。
揺れる触角や、つややかな黒い体に私は見とれた。
キュウリやナスを食べる姿もかわいかった。

そして何週間かが過ぎ、スズムシたちは鳴き始めた。
それはそれは美しい、本当に鈴を振るような涼やかな音色だった。
スズムシのケースを庭に出し、草の香りの中で夕涼みをしながら
家族みんなでスズムシの声を聞いた。
郊外の家のその小さな庭にはほかにもいろいろな虫がいて、スズムシの声と合唱した。
見上げた夏の星空、祖母や母の横顔、贅沢な虫たちの音楽会のことを幸せに思い出す。

「そのあとなんとなく、私はその子のことが好きになったように思ったの。」
と夫に話した。
「スズムシをくれたって言うだけで、好きになった気がしたんだね。
 でも気のせいだったかもしれない。それでもやっぱり好きだったのかもしれない。」
うなずきながら、夫は聞いてくれていた。

私はその後も相変わらずおとなしくて引っ込み思案だったけれど、
その子とは少し話せるようになっていた。
虫とSFが好きな彼とはもともと気が合っていたのかもしれない。
5年、6年も同じクラスになった。
何度かSFの本も貸してもらって、SFの話や虫の話もしたのだった。
「もしかしたら、初恋だったのかなぁ。でもね、その子は卒業と同時に外国に行っちゃったんだ。」
スズムシの話だったはずが、初恋の話になっていた。

6年の3学期になり、みんな中学のことを話すころになっても、
彼が何も言わないことを不思議に思っていた。
そんなとき、突然、彼が遠い国に行くことを、先生に聞かされたのだった。
「ショックだったよ〜。マンガで『ガーーーン!』ってあるでしょ。まさにあんな感じ。」
男の子同士が住所を交換する中、私はさすがにそこまでは言いだせず、
なにも特別なことを話すこともなく、卒業してしまったのだった。

「それで?」と夫が聞いた。
「それっきりだよ。ずっと会っていないの。それで終わり。」
夫の食事も終わっていた。
私はお箸を置いて、ちょっとぼんやりしてしまった。

玄関にいるスズムシの声がずっと響いている。
今はいない祖父や祖母と一緒に聞いた、星空の下の幸せな音楽会を思い出す。
そんな幸せなひと時をくれたスズムシやあの子のことを思い出す。


階段の猫 2005年08月21日(日)

今月の初め、父が仕事でインドネシアに行くことになった。
「化粧品とかバッグとか、ほしいものがあったら書いておきなさい。」
と言われたのだけれど、特にお化粧品もブランド物もほしいものはない。
「ありがとう。でもそんなこと気にしないで楽しんできてね。
おみやげは何かお茶かお菓子の珍しいものでもあったらよろしくね。」
と送り出した。

そして2週間後、実家の妹と電話で話した。
父は無事に帰国したらしい。
妹たちは、それぞれリクエストしたとおりのお化粧品などをもらって
ホクホクだったらしい。

「それでね、おねえちゃまのお土産、すごいよ〜。
 お手洗いに行こうとしたら階段のところにいてびっくりしちゃった。
 電車じゃ持って帰れないから、今度車で行くときに持っていくね。」とのこと。
え?え?お菓子じゃないの?
いる、ってなに?
「よく持って帰ったものだと思うわ〜。すごい包みだったのよ。」と母も言う。
う〜〜ん、一体何なの?

「なんだか父がインドネシアで大きなお土産を買ってきてくれたらしいよ。
 どうやら置物らしいの。どうしよう〜?」と夫に話した。
「そうか、どうしようね?(普段使っていない和室の)床の間にでも置く?」と夫。
民芸品の大きな置物、もらっても困るかなぁ。

先週の金曜日、実家に行ったときについにそれを見た。
リビングのまん前、2階に上がる階段のすぐ下に立っていた。
民族衣装を着た木製の猫の女の子がお花を持って首をかしげていたのだった。
かわいい!
だけれど大きいし、これをうちに置くのはちょっと…。

そう思いながら眺めていたときだった。
父に声をかけられた。
「どうだ。いい猫だろう。これを見たとき、○子の顔が浮かんだんだ。
 花を抱えている姿を見て○子にぴったりだと思ったんだよ。」
父は満足そうににこにこと笑った。
「うん、とってもかわいいね。…でもうちにはちょっと大きすぎるかな?」
と、控えめに言ってみた。
「だ〜いじょうぶだよ。きっと似合う。○子にぴったりだ。」と父は繰り返した。
これはありがたくいただくしかなさそうだった。

そして次の日、お祭りに行く妹と姪に連れられて、猫はうちにやってきた。
「ねえ、どこに置くの?」と姪たちははしゃいでいる。
あぁ、出してみるとやっぱり大きい。
測ってみると、その高さは80cm以上もあるのだった。
靴箱の上に置いてみた。
背が高くてちょっと危なっかしい。
「ママのママのおうちでは階段の下にいたんだよ。」と姪たち。
そうか、階段のところがいいかもしれない。

2階に上がる階段の折れ曲がるところに置いてみた。
高さはぴったり。
猫が手すりの間から玄関を覗き込むような感じになった。
見上げてみたら、しっくりと収まっているのだった。
「かわいい、かわいい!」と姪たちは喜んだ。
夫も「あれ?なかなかいいんじゃない?」と言ってくれた。
猫はお花を抱いてにっこりとほほえんで私たちを見下ろしていた。

まだ慣れていなくて、階段を上ろうとするたびにドキッとする。
でも顔は笑えてきてしまう。
木でできた猫のぬくもりとほほえみとかわいいお花を見ると心がなごむ。
何より、あのときの父の嬉しそうな声がよみがえるのだ。
外国で私を思い出して、大変な思いをしてこの猫を連れ帰った父に感謝する。
この子はきっとずっと私たちを、訪れる人たちを優しく見守ってくれるだろう。


スズムシの声 2005年08月19日(金)

お茶の先生のおうちの門をくぐり、引き戸をからからと開けると
涼しげなスズムシの声が迎えてくれた。
寄付きに置かれたチェックのデパートの紙袋の中から
その声は聞こえてくるらしい。
一緒にお稽古をしている、先生のご次男の奥さまが
持ってきてくださったものだった。
それは私への思いがけないプレゼント!
「飼っていたスズムシがアリに襲われて全滅してしまった」と言う
私の話を覚えていてくださったのだった。
お稽古の間中、薄暗い寄付きから、スズムシの澄んだ音色が響いていた。

このあと、実家によるのだけれど大丈夫かな、と思ったけれど
小さいプラスチックケースには、ちゃんと土が敷かれ、
餌のキュウリと梨、止まり木が入れてあって、スズムシたちは快適そうだった。
ありがたくいただいて、スズムシを連れて実家に行った。

私が帰省のお土産を持って実家に帰ることを、もう何日も前から姪たちは楽しみしていたらしい。
ばたばたと賑やかに出迎えられた。
母も妹たちも姪たちもそれぞれに喜んでくれた。
一騒ぎが落ち着いた頃、静かで涼しい応接間に置いてあるスズムシの様子を見に行った。
6歳と4歳の姪たちがはしゃぎながらついてきた。
スズムシたちは鳴いていなかった。

紙袋からケースを取り出すと「わぁ、虫!」と、ちょっと身を引いた彼女たちだったけれど
「この虫がリーンリーンっていい声で鳴くのよ」と教えると、興味津々で覗き込んだ。
入れてあった野菜が土にまみれていたので、母にナスを出してもらって2切れ入れた。
スズムシたちはすぐに近寄ってきてナスを食べ始めた。
「かわいい!」「おなかすいていたんだね」姪たちは小さな顔をくっつけあって覗き込んだ。
「スズムシは暗いところが好きだから、そっとしておこうね。そうしたらきっと鳴き出すよ。」
私はそう言って、ケースを紙袋に入れて、応接間のテーブルの上に置いた。

それから何分もしないうちに「スズムシ、ごはん食べちゃったかな?」と姪が聞く。
「う〜ん、今食べている最中じゃないかな?」
「まだ鳴かない?」「もうすぐ鳴くからそっとしておこうね。」
でも姪たちは連れ立って覗きにいったらしい。
「ごはん、まだあったよ。」「スズムシ、鳴いていなかったよ。」と報告してくれる。
そのあと30分ごとくらいに、姪たちの報告は続いた。
「覗かないほうがいいよ。暗いところでそっとしておこうね。」と何度も言っても
気になるらしいのだった。

夕方になり、保育園に行っていた5歳の甥が帰ってきた。
「おねえちゃま(私のこと)、ハジメもスズムシ見たいって!」と姪が言う。
「じゃあ、みんなでそっと見てみようか?」と、3人の甥姪と一緒に応接間に入った。
スズムシはまだ鳴いていなかった。
「あのね、暗くなくちゃいけないんだよ。」と年上の姪がわかったように甥に説明していた。
明かりはつけないまま、薄暗い中でプラスチックケースの中をみんなで見た。
「こっちの羽が大きいのがオスで、羽が小さくて卵を産む管があるのがメスよ。」と教えた。
姪たちは、オスとメスの数を数えてくれた。
オスとメスは8匹ずついた。
「鳴くのは羽の大きいオスだけなのよ。」
説明しながら、このスズムシが子どもたちの目の前で羽を立てて鳴いてくれることを望んだ。
でもまだ落ち着かないスズムシは黙ったままだった。

結局、私が帰る夜まで、スズムシたちはリンとも鳴かなかった。
姪たちは残念そうだった。
「おうちで飼ったら?」と言うと「ママがダメだって言うの。」姪が小さな声で言った。
そう、妹は小さいころから虫が苦手だったのだっけ。
「じゃあ、ママのママに飼ってもらって、それを見に来たら?」と提案した。
姪たちは、期待いっぱいに自分たちの祖母の顔を見上げた。
「ね?この小さなケースにちょっとわけてあげるから、飼ってあげて?」と私も頼んだ。
「そうね…。」と、母はなんとなく了承してくれた。
姪たちは顔を輝かせた。

スズムシを連れて家に帰り着いたら、もう11時近くになっていた。
出張に行っていた夫もそろそろ帰ってくるらしい。
スズムシは暗い玄関にそっと置いた。
夫を待ちながら、私は疲れてソファで眠ってしまった。
リーン、リーン、リーン…。
美しい音色に目が覚めた。
スズムシはやっと鳴き始めたのだった。
玄関の硬い床や壁に反射して、涼しげな音色は大きく響いた。
小さな銀の鈴をたくさん振っているようだ。

あぁ、いい声。
夏の夜はやっぱりスズムシがいい。
湧くような音色を聴きながらまたうとうと。
あの子たちに早くこの声を聴かせてやりたい。


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