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うたかた
sakurako

2010年01月17日(日)
「あれがデネブ、アルタイル、ベガ。」

いいんじゃねえの、と控えめながらも賛同してみたのは、特に天体観測を希望していたというよりは、単純にヒマだったからだと記憶している。多分他の二人も同じだったろう。「服部もたまにはいいこと言うじゃん」黒羽が缶ビールを飲み干して言うと、白馬も「たまにはね」と静かに笑って頷いた。明かりひとつない峠道の果て、都会では滅多に見ることのできないミルキーウェイを首が痛くなるくらい見上げてハイになったオレたちは、馬鹿みたいに笑ったり飛び跳ねたりしてはしゃぎ疲れ、誰ひとりとして翌日の午後まで目を覚まさずに眠り続けた。
興味がない振りを続けてとうとう言わなかった言葉は、実際のところは言わなかった、ではなく、言えなかったのだと今ならわかる。あの夏の日、もともと地黒の肌をさらに真っ黒に日焼けさせて、夜空の下では夜と区別がつかないくらいだったオマエの顔、笑った顔や、怒った顔や、眠そうな顔や、そんな全部をはっきりと思い出す。そして記憶の中のオマエはいつも天を指して笑うのだ。あれが夏の大三角形、と。とてもとても自慢げに、笑うのだ。


にゃったーが描いてくれたイラストを謹んで飾らせていただきます。
どうもありがとう!