初日 最新 目次


うたかた
sakurako

2009年12月08日(火)
菊地成孔のナイト・ダイアローグ・ウィズ(NIGHT DIALOGUE WITH)

出演:菊地成孔
ゲスト:西寺郷太/松尾潔
@白寿ホール

「ブラック・ミュージックに興味がない皆様は絶対に来ないでください」

キクチさんに公式で書かれてしまい、苦笑しつつも小さく衝撃を受けたマニア向けの! ナイト・ダイアローグ・ウィズ。
マニアとは全く言えないしょんぼりな私だけど、マイケルと、あと「アフロ・ディズニー」のテーマである「過剰同期」にすごく興味があったので(エヴァOPのミッキーマウジングのすさまじさとか、全能感とか、あーそうだ、あと「1/fゆらぎ」とかもてはやしてたのに、あの流れはどこに消えた? とか)下記の基礎教養を何とかクリアして白寿ホールに参戦した。『This is it』の話も聞きたかったし。非マニアとはいえ、自分はMTV世代なのがちょっと強かったかな。小学生の頃は「洋楽かっこいー!」で、何でもゴチャ混ぜのままMTVをたくさん見てて(「タイム・アフター・タイム」が異様に好きなのはMTVでシンディ・ローパーをやたら見たせいだと思う)その後は邦楽→ロック→渋谷系→無音楽(よくもその後まあキクチさんに巡り合えたことだ! ブラヴォー!)と推移したので、私の中でマイケルは全盛期のスーパースターのまま止まっているのだ。『ウィ・アー・ザ・ワールド』のレコードが欲しくてお小遣い貯めて買ったし、マイケルのPVも記憶してる。CMもうっすら覚えてる。もちろん小学生だったから、どれくらいすごいのか(特に音楽的には)正確に理解はしていなかっただろうけど、そのかわり、近頃なんであんなに批判されるのかもよくわからなかった。その辺の話をぜひ聞きたい思った。
私では真意がわかっていないところも多々あるだろうが、結論から言って、すごくエキサイティングな、そうだな、「思索の愉しみを得る」にはスキルが足りなくて遠いけど、「知識をごくごく飲んで自分の血肉にしてゆく興奮」を味わうことができた。基礎体力さえあれば、どこまでも遠く飛べる。飛ばしてくれるキクチさんに感謝。気付いたら大学の講義みたいに超メモってて(「これだみんなメモれ!コピれー!」)、繰り返し読んでは楽しんでいる。ライブと違って(ライブはそこがいいんだけど)、何度でも読めて咀嚼できるから嬉しいよね、こういうのは。
それにしてもああ、1日からずっとパーティーウィークだったことだなあ。素晴らしい12月。

基礎教養
「新しいマイケルジャクソンの教科書」
「M/D」
「アフロ・ディズニー」
以上読了済み。
マイケルの楽曲をすべて聴く。
EXILEの曲を歌う。
好きなブラック・ミュージックの音楽家を5人あげられる(←実はあやしい)。

服装(最近記録しておくことにした)
白タートルセーター(ユニクロ)
ボルドーベルベットジャンスカ(ジェーン・マープル)
ボルドー裏ブック柄コート(同上)

以下、当日のメモを起こしたものを、自分用に取っておく。
著作権? というか、モラル的にあまり好ましくないと思うので、自分と、限定された友人用に公開。内容が事細かく記載されているので、知りたくなければお手数だがここから先を読むのは避けて欲しい。読まれるにしても、拙い上に、恐らくは理解不足による意味の通らない部分もある(ライブなので、実際に話題が噛みあっていなかったり、はぐらかされたりした所もあるが、敢えて均すのは避けた)ことをご了承いただきたい。また、誤謬についてはご指摘いただけたらとても嬉しい。長いですよー。




菊地:最近自分があちこちで言っていることなので「またあいつ同じことを……」と思われる方も多いと思いますが、かつて「2000年問題」という一種の都市伝説が存在しました。00という数字を想定せずに作られたコンピューターが2000年を1900年と誤認し、それによって混乱した果てに世界恐慌が訪れる、というものです。ノストラダムスと同じく、幸いにも結局は何も起きずに終わったわけですが、実は計器が壊れたことによって20世紀が10年延びているというだけで……つまり2001年に起きるはずだった200年問題は、2010年――1と0の位置がずれたわけですね――に起きるべく、今も静かに進行しているのです。いや僕の妄想ですよ、「サイレント2000年問題」(笑)。しかしながら、まさに世紀末といった現象は――森繁久彌氏と大浦みずきさんが1週間とあけずに逝去され、ピナ・バウシュとマース・カニングハム、そしてレヴィ・ストロース……そして「オバマエフェクト」――枚挙にいとまがありません。中でも最もポピュラーで、衝撃的だったのが「マイケル・ジャクソン・エフェクト」ではないでしょうか。そんなわけで今夜は、もう経歴を紹介するまでもない有名人ですが『新しいマイケル・ジャクソンの教科書』の著者である西寺郷太さんと、音楽プロデューサーの松尾潔さんをお招きしてお話させていただきます。どうぞ。

向かって右から、菊地・西寺・松尾と並ぶ。
菊地さん 黒のハーフコート。ストレートのパンツ。少し色入りの眼鏡。ハーフコートが燕尾風に見えて素敵。
西寺さん 赤のカーディガンにジーンズ、クレリックシャツ。黒のハット。黒縁のメガネ。
松尾さん グレーの「いいスーツ(「なにせレコード大賞で大儲けですから」(笑)」に赤いチーフ。

松:先日のオーチャードに行かれた方はどのくらいいらっしゃるんですか?
(挙手。半数くらい)
松:はー、手強いですなー……。
菊:ぜんぜん手強くないですよ!
松:じゃあの、NONA REEVESを知ってる方……
菊:率直に「『新しいマイケル・ジャクソンの教科書』を持ってる人」でいいじゃないですか(笑)。持ってる人?
(挙手。8割。)
松:おー、すごいですね……じゃあ『ブラックミュージック・ガイド』を……
菊:だから率直に(笑)。エグザイルのニューアルバムを購入された人は?
(挙手、ややおずおずと)
松:なんで挙げにくそうなんだよ!
菊:レコ大2年連続受賞のくせに今更ナニ言ってるんですか(笑)!
松:しかしソウルバーとかじゃなくって、こういうところでマイケル・ジャクソンの話ができるのって、なんだか感無量ですね……!
西:みなさんお忙しいのにね。打ち合わせ、面白かったですよね、普通打ち合わせって言ったら「こんなこと話しましょう」ってことを確認する程度なのに、予想通りというか、会うなり「マイケルがさー」って始まって、3時間(笑)。いっそやんなきゃよかったと思う、打ち合わせ。面白い話、あそこで済んじゃったもん(笑)。
菊:そう言わずに再演しましょうよー(笑)
松:僕は菊地さんと何度かお会いしてるけど、郷太くんはあの時が初対面だったんだよね?
西:そうです。
菊:松尾さんと西寺さんはバンドのメンバーだもんね?
松:みうらじゅんさんの番組でやった、「エキゾチックJAPAN」のね(笑)。「エキゾチックJAPAN」曲のタイトルは「恋人はインド人」。あと「チロルの風にさらわれて」。郷太くんののヨーデルが冴え渡る、っていう……(笑)
菊:作詞・松尾潔なんて超豪華じゃないですか!
西:松尾さんがおっしゃるとおり、僕は菊地さんと、この対談が決まって初めてお会いしたんですが、もちろんお名前やお仕事は以前から存じあげていました。実は僕がマイケル本の執筆に悩んでいたとき……はじめての本だったので、どう書いて良いか全く見当もつかなくて……その時、偶然、僕の信頼できる仲間がペン大の生徒で、菊地さんの『M/D』を教えてくれたんです。「そうか、オレはマイケルでこれを、こうやって書けばいいんや」って、もう目からウロコでした。
松:僕も菊地さんパクりましたよ。
菊:「パクった」って……。
松:明日発売のアルバムは『メロウ・ディズニー』といいます。
菊:ああ(笑)! で、西尾さんは『M/D』をお読みになって、『マイケル・ジャクソンの教科書』を書かれた、と。すごく短期間で集中して書かれたそうですね。
西:1ヶ月くらい……1日7時間×40日間くらいです。僕はNONA REEVESのライブを毎年8月のはじめにやってるんですけど、今年はたまたま主催のミスで、8月はじめに取れていたはずの会場が取れてなかったことが5月の末ごろにわかった。もちろん「会場取れないなんて何やってんのや!」って怒ったんですけど、まあ仕方ないから、気を取り直して8月の最終週にリスケした。そしたら6月にマイケルが亡くなって。結果的に、8月いっぱい集中して本を書けたんです。あれが8月頭にライブだったら、こうはいかなかった。その、何て言うか……。
菊:巡り合わせね。それだけマイケルが好きなんだもん、あるよ。
西:そう! だってウィキペディアのマイケルの項目ね、あれ相当僕が書いてるんですよ! ……いや、書いてないんですけど……勝手にブログとかからコピペされてる。ジャクソン家の番犬がランディに噛み付いた、って事件があって、その番犬はシェパードだったんですけど、そのことを自分の歌の歌詞というかラップにした時、語呂があわなくってドーベルマンに変えたんですよね。そしたらウィキペディアに「番犬はドーベルマン」って書いてあった(笑)……ところで、何でオレが真ん中に座んなきゃなんないの?
菊:そりゃあ主賓だからですよ! あのう、さっきのマーケティング・リサーチを続けさせていただきたいんですが、この中に『M/D』を持ってる人はどれくらいいらっしゃいます?
(挙手。4分の1くらい?)
菊:あー……
松:すごいねー……
菊:絶版ですけどね(笑)。この場だからですよ。普通もっと全然少ないですよ。じゃあ、マイケル・ジャクソンのレコードを3枚以下しか持っていないけど『新しいマイケル・ジャクソンの教科書』を買った、という人は?
(挙手。6割)
松:うわー……
菊:『M/D』出版時と同じ現象が起きてますね……つまりマイルス・デイヴィスを聴いたことがないのに本は読むという。
松:マイケル・ジャクソンについては、貸しレコード世代のヒーローだった、ってことも影響してると思いますよ。例えば「エディ・ヴァン・ヘイレンがギターを弾いてる曲を聴いてみたい」と思った時、当時の若者の多くは買うんじゃなくて、貸しレコード屋で借りて聴いたんじゃないでしょうか。だからマイケル・ジャクソンのアルバムを全部聴いていても、保有している人が少ない、という現象はありえるんじゃないか。
西:85年問題ですね。マイケル・ジャクソンと小沢一郎が実は同一人物っていう……(*「マイケル・ジャクソン、小沢一郎 ほぼ同一人物説」のこと。55年、ビルボードが誕生したいわゆる「ロックンロールの誕生」の年、自民党も誕生していた……)のはどうでもいいですが(笑)、『ウィ・アー・ザ・ワールド』がレコーディングされたのが85年の1月27日、リリースは5月ですが、あのアルバムをCDで持っている人ていうのはほとんどいないはずです。
菊:レコードでしょうね。
西:そう。その後、世界は急速にメディアの変化を迎えたんです。ライオネル・リッチーやプリンスは、メディアがCDになって、情報量が爆発的に増えたのを境に、アルバムの質が薄まったと僕は思う。その点『Dangerous』という、76分59秒にも渡って、これでもかと様々な曲が詰め込まれている濃いアルバムをつくったマイケル・ジャクソンはCD化、メディアの変化に勝った人だと僕は思っています。
菊:CD化の話は「マイケル・ジャクソン・エフェクト」の中でも最大のポイントだよね。MTVの話はみんなするけど、メディアが変化したこともMTVと同じくらい重大だよ。松尾さんはその点、僕の世代なのにブラックミュージックにのめりこんでいたわけじゃないですか、それって異常ですよね(笑)。松尾さんにとってマイケル・ジャクソンは特別枠ではないんですよね? ガチで?
松:ええ……。
菊:マイケルは馬鹿にされていたか否かっていったら、松尾さん的には……
松:されてませんね。
菊:変わってるよね。
西:変わってますね。僕は渋谷系世代ですけど、「マイケル馬鹿にされた」とばりばり思ってますよ、腹立つわー(笑)。Shampooとか、スキャットマン・ジョンとか、僕は真剣に好きで取り組んでるのに「えー、それが本当にきみのベスト・フェイバリットなのぉ?」みたいな、不当な扱われ方を……。
菊:すごい巨大なサーガが立ち上がってますよね、RUN DMCとマイケルの対決という図式みたいな。
西:「BAD」のPVってね、正直、最初に見た時は意味わからんかったんです、マーティン・スコセッシの意図が。最初フツーの格好したマイケルがぼんやりしてる図が出るでしょ、それが途中、闘争のシーンでいきなりカラーになる。今思うに、カラーのとこはマイケルの妄想やったんやないかな。つまりマイケルはRUN DMCと共演したかったんやないか。実際、クインシー・ジョーンズはRUN DMCにオファーしたけど、マイケルが断った。
菊:マイケルが断ったの?
西:断ったんです。クインシーはブラックの方に行きたかったんでしょうけど、マイケルは最先端のロックに行きたがっていたから。マイケルとクインシーとRUN DMCの激烈なバトルが「BAD」の本質やと今は思ってます。(力説)
菊:松尾さんは今はレコード大賞で悠々自適で(笑)、今の西寺さんみたいに必死で力説したりはしないけど、『ブラックミュージック・ガイド』を書かれた時には同じような、つまり「ブラックミュージックを日本のヒットチャートで正当に評価させてやる」みたいな意気込みがあったんじゃないですか?
松:僕がマイケルについて公式の場でコメントするのは亡くなってから初めてです。そして多分最後ですから。
西:「最後」言うておいてまた復活するんでしょ、まさにマイケル・ジャクソンみたい!
菊:僕ね、ブラックミュージック関係で昔のこと、って言うと16年前のことをすごくよく覚えているんですよ。16年前、朝本くんと知人の結婚式で会っててね、僕はヒモで暇だったけど……今も貧乏暇なしですけどね(笑)、朝本くんは僕とは違って「ソウルバーとかで流れている音楽がベストテンとかに溢れるようになればいいと思うんですよね!」と熱く語っていた。で、「今度いい新人がデビューするんですよ、UAって言う」「うーあ? 何人?」みたいな話をした。UAさん、オーチャードにも来てくださいましたが、翌年デビューするなりあれよあれよで15周年ですものね。
西:打倒カート・コバーン、打倒ニルヴァーナ、打倒レッドホットチリペッパーっすよ! 僕は戦ってますよ。だって、僕は8歳のときから曲を作っているのに、ちゃんとバンド組めたのが21歳の時なんですよ。それがもう、今のNONA REEVESですもん。なんでそうなったかって言うと、ティアーズフォーフィアーズとか、ワムとか、ファンキーなポップチューンを本気でやりたがる奴がまわりにいなかったんです。ああいうジャンルは、素人には技術が難しすぎるし、よく知ってる人には馬鹿にされてた。だから大学に行ってもバンド仲間ができなかった。それがさ! 「ニルヴァーナのファン募集、バンドやりましょう」なんてビラが大学に貼ってあると、どんどんはけるわけ。で、大学近くの飲み屋で「かんぱーい! ニルヴァーナ最高!」とか仲良くしちゃってる。「おめーらニルヴァーナ好きのクセにつるんでんじゃねーよ」と、僕は怒り心頭ですよね。すげートラウマですよ。今は好きですけど、ニルヴァーナ(笑)。
菊:好きなんだ(笑)
西:シアトルに行った後、好きになった。この間ビームスに行ったら、カート・コバーンと、ジョン・レノンと、マイケル・ジャクソンがそれぞれ蓋骨でデザインされたマグがあってね、「悲しい死を迎えたロックスター」というカテゴリーにマイケル・ジャクソンが加わったんだなあ、という感慨がありました。あんなにトラウマになってたニルヴァーナなのに、対になるっていうか、マイケルとニルヴァーナは僕の中で対立概念だったのに……同じマグカップのデザインに……。ニルヴァーナとマイケル・ジャクソンが戦い、僕も飲み屋で戦っていた……!
菊:絵に描いたような倒錯ですね。「ニルヴァーナ好きには仲間がいて、マイケル・ジャクソン好きな西寺さんが孤独」っていう倒錯。僕らジャズメンやラテンは浮世離れしてるから、ストリートのことはちょっと傍観してる感じなんだけど、松尾さんには仮想敵ってあったんですか? 西寺さんにおけるニルバーナみたいな。
松:うーん……あんまり僕、競争とか興味ないんですよね。競うことによってモチベーションを上げる、みたいなのはない。いやー、どうやったら嫌われないように喋れるか考えると無口になっちゃって(笑)
菊:考えなくていいと思いますよ(笑)