VITA HOMOSEXUALIS
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東北震災の年の夏、私は福島を訪れた。放射線の影響を受けた地域は、見た目には被災前と何ら変わりないのに、立ち入りを禁止される。家も庭も畑も、手にとるように目の前に見える。慌てて避難してきたから、庭には洗濯物が干してあり、部屋には読みかけの本が開いてある。それなのにそこにはもう近づけない。このままにしておくと荒れてしまうのに、どうすることもできない。
それから私は山口県の島に行った。そこは原発反対を堅固に押し通してきた島である。本土とわずか数キロしか離れてないのに、埋め立てられた本土の海岸が死滅しているのに比べて、この島の海岸は美しく、海は透き通り、海中にはいろいろな生物が見える。大きな川のない島ではいきおい自給自足でエネルギーもまかない、廃棄物も島の中で処理してきた。江戸時代からそうやって環境を守ってきた島であった。
その島からの帰り道、私はネットで知り合った大学生とホテルで出会った。
ネットでは彼は悪ぶっており、男同士のセックスの世界もよく知っているような書きぶりだった。
だが、明らかに似合わないサングラスをかけてロビーの椅子に固くなって腰掛けている彼を見ると、この世界は初めてなのだとわかった。私は彼を部屋に誘った。
手にしたアイスコーヒーのグラスがテーブルに当たってカタカタ音を立てるほど彼は緊張していた。「今日は何をしていたの?」と尋ねると、「大学で実験していました」と消えそうな声で答えた。二言三言ことばを交わしているうちに彼の頬は紅潮してきて、やがて耳まで真赤になった。
私は彼を立たせ、ゆっくりワイシャツのボタンを外していった。薄い胸が現われ、それはひくひくと波打っていた。私は彼のズボンのベルトを外し、腰のところを開いてジッパーを下ろした。彼のペニスは大きく勃起して、トランクスがテントのように張っていた。彼は苦しそうな息を漏らしていた。私の手はそっと彼のペニスに触れた。「はぁ」というような声とも息ともつかない吐息を彼は漏らした。ペニスの先はもうトロトロに濡れていた。
私は彼をベッドに誘い、お互いの裸体を絡ませた。彼は身を固くした。
彼はほとんど動かないままであった。胸まで飛び散るほどの射精をしたときも、彼の体は凍りついたように固まっていた。
私はゆっくりと彼の精液を拭いてやり、ベッドの上に起き上がって自分の精液も始末した。
そのとき彼は横を向き、ひくひくと体をくねらせ始めた。手でしきりに顔を拭っていた。くすん、くすん、という息遣いが聞こえてきた。私はそっと彼を見た。彼は泣いているのであった。喉が震え、ひく、ひく、と嗚咽を我慢している。時折涙が溢れ、彼はそれを不器用に手で拭う。彼は鼻水をすすりあげる。
「初めてだったんだね」私は声をかけた。
かれはこっくりと頷いた。
私たちはシャワーを浴びた。彼はごしごしと顔をこすり、涙や鼻水の跡を消そうとした。頬の紅潮は収まっていたが、今度は体全体が青ざめたような様子だった。
彼は裸のままトイレに行った。小便を放つ盛大な音が聞こえてきた。
それから駅前の中華料理屋で食事をして別れた。私は彼に悪い事をしたように思った。「ありがとう」とメールを打ったが返事はなかった。
だが、翌日彼から届いたメールには、以前のように悪ぶった調子がうかがえた。
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