VITA HOMOSEXUALIS
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K君は次第に活動への疑問や批判を口にするようになった。
それは実は私も感じていることだった。
だが、彼を教育する立場の私としては、彼の言葉に同感めいたことは言えなかった。
ここで私は気づいた。
上層部は私の気持ちが離反し始めたのを知って、わざと私を新人の教育係にし、私の思想を鍛え直そうとしているのだ。
自分が信じてない言葉でも、他人に向かってそれを100回も言えば、自分でもだんだん信じているような気になる。
だが、私はそれに倦んだ。
私たちが究極的に目指していたのは全世界の労働者の同時蜂起だ。
世界各地でプロレタリアートが資本家階級を倒し、全世界統一政府のもとにプロレタリア革命が成就する。
私は、そうなれば良いとは思っていたが、そうなることはないだろうとも思っていた。
そうすると私たちが局所的にやっている闘いは何なのか?
原発、基地、反動教育、思想統制、大資本家優遇、下層労働者切り捨て、福祉切り捨て。
手直しして行かなければならないことはたくさんある。しかしその手直しの先に目指すのが世界同時革命であるなら、それが無理なことなら、局所的な闘いは無意味ではないか。
K君のように疑問を持つ人は、従来のやり方ではオルグできなかった。
もっと彼の言うことを聞き、彼の気持ちに寄り添い、彼の心をほぐすような工夫が必要だった。
それで私は事務所外でも彼と個人的に会い、闘争と関係ない話もたくさんした。
秋風が吹き始めた渋谷の街を二人で寄り添っていろいろ話ながらぶらぶら歩き、喫茶店でタバコを吸ってコーヒーを飲み、本屋で思想とは関係のない本を見て歩く。
私は彼のプライベートな生活は知らなかったし、こちらも教えなかった。
しかし、若く美しい男の子とこのように並んでいると、それは甘いデートのように思えて来るのだった。私はそれをだんだん喜びに感じ、彼を積極的に誘うようになった。
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