VITA HOMOSEXUALIS
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一年経った。
私は十九歳になった。
彼との間はまだ続いていた。
私はその頃にはもう自慰をする必要を感じなかった。
性欲が高じれば彼に連絡をし、彼のところに行って絡み合えば良かったのだ。
あるとき、私は電話をせずに彼のところに行った。いつもは私から彼に電話して彼のところを尋ねるのであった。私の住んでいるアパートには大家さんの部屋にしか電話はなく、親族以外からの電話は取り次がないということになっていた。
それは木枯らしが吹きそうな晩秋の日であった。もうすっかり日が短くなり、中野の彼のマンションが見えるところに来たときには、灯ともし頃になっていた。
マンションの玄関から二人、人影が出てきた。顔がわからないくらいの暗さだったが、私には、そのうちの一人が彼であることがわかった。私は電柱の影から二人を見た。
その二人は握手をし、軽く抱擁し、彼はもう一人の男の頬に接吻したように見えた。
その相手の男はこっちに向かって歩いて来た。小太りな中年の男のようだった。彼はマンションの中に戻って行った。
私はこれまで彼の部屋に他の男の匂いや影を感じたことはなかった。しかし、考えれば私と会っている時間は短く、それ以外の多くの時間を彼は持て余しているに違いなかった。そこに他の男を引き込む余地が生まれても不思議はないのだった。
私は妙に納得し、そのまま踵を返して自分のアパートに帰った。
私はそれきり彼に会うことはなかった。
彼は二、三度私の住むアパートに電話したようだった。電話は取り次がないくせにお節介焼きの大家のおばさんがそれらしいことを伝えた。
私はまた一人になった。
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