VITA HOMOSEXUALIS
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私を出迎えてくれた青年は車椅子に乗っていた。
脊椎を損傷したが、運が良かったので下半身が動かないだけで手は自由に使えると言っていた。今は少し具合が悪くなったので入院しているが、退院するとアパートで一人暮らしをしているし、手だけで動かす自動車に乗ってドライブにも行くという話だった。
部屋はたしか四人部屋ぐらいで、カーテンで仕切られた空間が彼の城なのだった。そこにはギターやノート、楽譜などが置かれていた。その部屋の中だと他人の耳があるので同性愛の話は出来ない。彼は屋上に行こうと私を誘った。
彼の車椅子を押して廊下に出た。廊下は暗かった。すれ違った看護婦が「あら、お友だち? たくさんお友だちがいていいわね」と声をかけた。それで私は、彼がこうやって男を呼んでいるのは自分だけではないということがわかった。
屋上は明るかった。洗濯物がたくさん干してあった。陽射しがまぶしく、暑いくらいであった。私たちはエレベータの機械室の影に行った。
私は自分が酒屋でアルバイトをしながら専門学校に通っていることを話した。
「全くのノンケでしょ?」と彼が言うので「いいえ、そうじゃありません」と、私は映画館での体験を話した。そうして自分は青年になった頃から同性愛であると自覚していたのだという話もした。
彼は「ボクはこんなふうな体になってからなんですよ」と言った。「チンチンが立たなくなってから、他人のチンチンが恋しくなったんです。大きく勃起してるやつが」
彼の話によると、最初に自分の相手をしてくれたのは医者だった。それから、アパートにやって来る宅配便の配達員などとも関係を持った。今は教会のアメリカ人の牧師が好きだ。できれば結婚したいと思う。
彼は突然私の方をまっすぐ見た。
「チンチン見せてくれませんか?」
「ここで、ですか?」
彼の目は真剣で、すこし凶暴になっているように私には見えた。
私は彼の方に近寄った。
彼は私のジッパーをおろした。それはまだ硬くなかったが、彼の手でいじられているうちに硬くなってきた。
「もっとこっちへ来て」彼は喘ぐように囁いた。私が二歩ほど進むと、彼は私のペニスをくわえた。彼の舌と頬が生き物のように私にへばりつき、私を翻弄した。私は股に汗をかいた。腰が疼いてきた。彼の口の運動は規則性を加え、動きは激しくなった。私は目を閉じた。
私は彼の口の中に射精した。
彼はそれを呑み込んでしまった。
なぜか私の目から涙が一条流れた。
東京の西の森にあたる陽射しは傾こうとしていた。
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