獅々丸の雑記帳
INDEX過去未来


2008年09月03日(水) 獅々丸、蝗虫と走る。

通勤途上、県境を流れる川岸の幹線道路。
前方が赤信号で停まっていたので、アクセルを緩めブレーキに軽く足を置いた。

久しぶりの晴天…いや、猛暑か。
キャビン容量に比して窓の面積が大きいロードスターでは、クーラーも風が当
たる箇所は涼しいものの、差し込む強い日差しに曝される太腿などは暑くて堪
らない。

流石にきつくなってきたので、風量を1段階上げようと視線をセンターパネル
へ向けた時だった。

視界の端に何かが飛び込んできた。

いや、フロントガラスにそれは当たったのだから正確には「飛び込んで」はこ
なかったのであるが、「飛んで」きたのは確かである。

小さな蝗虫だった。
大きさからして雄の精霊蝗虫だろう。彼の住処を表すような綺麗なグリーンを
した5cm弱の蝗虫。

それがフロントガラスの左上にちょこんと乗ったのだ。



久しぶりに間近で見た蝗虫、しかも運転席からフロントガラス越しに見るそれ
は、今まで余り見たことのない姿を見せてくれた。

信号が青になったようだ。
蝗虫が飛ばされないようゆっくりとロードスターを前へ進める。とは言っても、
ノロノロと走っていられるほどの道路状況でもなければ出社時間までの余裕も
ない。

急加速にならないようにだけ気を使いながら速度を上げていくと、蝗虫も思い
のほか頑張るではないか!
初めは「風圧が強くて押付けられているのかな?」とも思ったのだが、巡航速
度の中で彼はフロントガラス上を移動し始めたのだ。
一度は何を思ったのか(恐らく何も思ってはいないのだろうが)進行方向へ向
けて90度の態勢を保っていたのを、ジリジリとその場で回転し始め、とうとう
進行方向へ頭を向けてしまったのだ。
これには蝗虫も大変だったに違いない。
彼の三角形の頭は走行風をまともに受けて、空へ向けて反り返っていた!
前脚も今にも離れそうでプルプルしてる。
フロントガラスの傾斜がなければ、きっとここで振り落とされていただろう。

後続車がない限りは出来るだけ速度に気を使い、「急」がつく操作を避けなが
ら、蝗虫とのランデブーを楽しんだ。
彼はたまに吹き飛ばされそうになりながらもフロントガラスを縦断しつつ動き
回り、やがてワイパーが風除けになることを覚え、そこに落ち着いた。

面白いことに、たまにワイパーの陰から頭を出しては前方を向き、まるでロー
ドスターの行き先を確認するかのような姿勢をとる。

世にも奇妙な、蝗虫のオーナメントを付けたロードスターは走る。

彼とのランデブーは今日の駐車場まで実に15km余りも続いたのである。
しかし、所定の場所へ停車して、記念写真でも撮ろうとロードスターを降りよ
うとした瞬間に、彼は駐車場の植え込みへ羽ばたいていってしまった。
その特徴的な飛翔音すら聴くことも叶わず……。

飛び乗ったロードスターに連れてこられた場所は、以前の住処とは比べようも
ないコンクリートとアスファルトだらけの世界。
もしかしたら、上手くは生き難い世界。
それでも、蝗虫の飛び去るその後姿には力強さを感じずにはいられなかった。

その「力強さ」は短い時間を共に過ごした相棒への…そしてなにより自身への
「希望」であったに違いない。



〜完〜


獅々丸 |HomePage