舌の色はピンク
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2015年03月13日(金) 13日の金曜日ごっこ

小学校4年生のころ
イエスキリストの磔刑について知りおよび、
今となっては子供だましの俗説も仕入れ、
13日の金曜日ごっこという遊びを開発した。

任意の人間を選んで壁際に押さえつけ、
手には釘!
と叫ぶや掌を突っつき、
イバラの冠!
と叫ぶや頭髪を掻きむしり、
そして…アダダダダダダ!
と叫んで全身を殴打する、
最高に楽しい遊びだった。
被害しかないイエスキリスト役も人気だったから
だいぶ平和的だったといえる。

僕と並んでその戯れに夢中だった林くんとは
時を問わずクラスメイトに率先して励んでいたものだったけれど
実際に暦の上で13日の金曜日を迎えようならば
発狂するほど身も心も跳ね回ってた。
「これはもはやごっこじゃないよ!」
そんな文言すら飛び交っていた。

しかし僕は転校してしまう。
林くんとは「絶対次の13日の金曜日には、やろう」と熱い約束を交わした。
果たして新天地での生活は無事始まったけれど、
新しい学校新しい友達新しい恋愛に触れ合っている間も
僕はずっと林くんとの約束が心残りで、
いよいよ13日の金曜日が訪れるにいたり、
僕は電車を乗り継いで林くんの家に遊びに行った。

なにより留守が怖かった。
がインターホンには林くん自身が応じてくれたので、舞い上がり、
「や、約束果たしにきたよっ!」
と決めゼリフを吐いた。
「え、約束?」
「うん。ほら、今日……」
「今日? …うん、あぁ…。…え?」
「…………いや、ほら、今日13日で…」
「うん」
「金曜日でしょ…」
「あー。あぁ、ん? えーと……。あ、え?」

僕は逃げ出した。
到底子供に耐えられる脚本じゃなかった。
懐かしい公園も、通っていた学校も、
かつての住まいも振り切ってただ逃げた。

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抜粋してみるとありふれた話。
よくよく思い返せば林くんとは特別仲良かったわけじゃなく
その戯れだけで結ばれていたような縁だったこともあって、
学校でのテンションを家にまで来て持ち込むなよ、
みたいな不安はもともとあった。
当のごっこ遊び自体も僕が開発したものだけに
一人で盛り上がっちゃってた痛々しさもある。
約束とやらだって、林くんと対等にじゃなく
僕が一方的に取りつけたものだったかもしれない。
なにより林くんはすでに別の、僕の知らない遊びを
日々に取り入れて楽しんでいたのだろう。
わかっていても辛かった。今も辛い。
僕にとって13日の金曜日はまぎれもなく忌み日。


れどれ |MAIL