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2007年12月01日(土) ■
ぎむれっと――または、ろんぐ・ぐっどばい 2) sideK


「人身売買?」
オレの言葉に、五代目が賭けに負けてスッテンテンにでもなったような顔で頷いた。
「半月ほど前、火の国を本拠にしていた組織が摘発されたのは、カカシ、おまえも知っているだろう?」
「貿易会社を隠れ蓑にしていたんでしたっけ? あれは表向き火の国の警務組織が摘発したことになっていましたね」
裏で木の葉の暗部が動いたことは明白だ。
「その際、保護された子どもたちのほとんどが誘拐されてきていることがわかった」
「全部で17名でしたか?」
「と公表された」
「つまり……」
「実際には19名いた」
「二人は?」
「保護された翌日、失踪した」
「素性は?」
「不明だ」
なるほど。素性を知られては困る者が背後に控えている、ということか。
「17名の出身は?」
「13名がそれぞれの隠れ里で忍の訓練を受けている、いわばアカデミー生のような子どもたちと判明した」
「4名は?」
五代目の表情が一瞬、険しくなり、掃き捨てるように言葉が続く。
「親に売られた」
オレは黙って頷いた。
「そして素性のわからない2名……ですか」
「子どもたちの話では、その2人は一番最後に合流したそうだ。みなが怖がって怯えるなか、平然としていたらしい」
「どの隠れ里にも属していない、しかし忍として訓練されたらしい子ども、ということですね。彼らの買い手はわかっているんですか?」
「ああ。音の里だ」
不機嫌そうな声に、オレは「おっと」と言いかけた言葉を飲み込む。
こりゃ、五代目の機嫌が悪いのももっとも、といったところか。
ポリポリと後ろ頭をかきながら、口元を歪めている五代目を見る。
事件から半月が経過している、ということは、ある程度、背後関係の絞込みができている、ということだ。
「で? オレはどこを探ればいいんですか?」
チラと視線がオレを捕らえる。
「相変らず、察しがいいな」
「Sランク任務から戻ってまた、Sランク任務に舞い戻る生活ですからね。勘も鋭くなりますよ〜」
おかげで、近々、里外任務から戻るはずのテンゾウとまたスレ違ってしまうのだろうが、そんなことにも慣れた。
残念だな、とは思うが、仕方ない。仕方ない、と言って諦める以外にないのだ。それ以上深く考えると、やるせなくなってくるのがわかっているから、考えない。
「子どもたちの話を総合して検討し、暗部を調査に向かわせた結果、どうやら火の国と雷の国の国境近辺の山里に人身売買組織と繋がりを持つ村があるらしいことがわかった」
「あるらしい? 暗部の調査にしてはお粗末ですね」
「そう言うな。特出した産物もない寒村で、いまは一応、雷の国の領土に入っているのだ。過去、火の国と雷の国の衝突のたび、火の国の領土になったり雷の国の領土になったりしているため、村人たちは自主独立の風を重んじ傾向にある。暗部と言えど、目立つ動きはできぬ」
なるほど、大国の歴史に翻弄された貧しい村、ね。
「で、オレが出張るためのお膳立ては、どうなっているんですか?」
「ほんとに、察しのいいヤツだな」
言葉とは裏腹に、五代目の表情は険しい。オレは仕方なく、はは、と笑った。
要するに、裏から探れないからオレという駒を使って陽動をかけるのだ。写輪眼のカカシ、コピー忍者などという二つ名をもつオレが表立って動くことで、相手の動揺を誘うという作戦――そういう駒にオレを使うことを、苦々しく思っているのだろう。
「雲隠れの里との友好条約の期限がそろそろ切れる。条約は更新されるわけだが、それに先立って勅使を立てるのが慣わしだ」
「それを、オレが? 普通、ご意見番あたりが、護衛を伴って動かれるのでは?」
「世代交代した火影は跳ねッ帰りで、まだるっこしいことが嫌いなのさ」
そう言って、ようやく五代目は笑った。
「面倒なことはサッサと片付けるに限る、ということで、おまえを派遣する。ご意見番は後で知らされ、オロオロする」
「そういう筋書きですか」
「日程的に、途中、その問題の村で一泊するように仕組んだ」
「わかりました。で、出立はいつ?」
一瞬、五代目がじっとオレを見つめた。どういう意図があるのかは、わからなかったが、思いのほか強い瞳の光にオレは柄にもなく妙な胸騒ぎを覚える。
「明後日だ」
「御意」
礼をしながら、胸騒ぎだけが残っているのをオレは感じていた。

テンゾウの部屋には式を飛ばした。
もし、明後日の出立までにテンゾウが戻ればオレからのメッセージが伝わる。
それでもゆっくり会う時間はとれないだろう。
何しろオレもSランク任務から戻ったばかりだ。明後日までに、体力を回復させることも含め、やるべきことはたくさんある。
それでも、ほんの少しでも顔を見ることが出来れば、声を聞くことができれば。
それだけで、いいのに、と思う。
会わずにいることが不安に繋がる、というほど、青臭い付き合いはしていない。
でも、会いたいものは会いたい、というのが本音だった。
一抹の不安は、常に付きまとっているが、会いたいという感情は、不安を消し去りたいがために生じてきているわけではない。
むしろ、ただ、会えるものなら会いたい。そんな素朴な感情だ。
ある意味、無欲で、ある意味、貪欲な感情を、いまだ抱き続けていることこそ奇蹟だとオレは思う。
一言では言い切れぬ、さまざまなときを経て、それでもオレはテンゾウに会いたいと願っている。それだけは、変わらない。出会い、気づかぬままに惹かれていたころから、変わらない。
ずっと変わらないこの感情こそが、オレにとって何よりも大切なものだと思う。こっぱずかしくて、とても言葉に出して言うことなど、できないだろうが。

忍具を調えながら、オレはとりとめもなくそんなことを考えていた。

そのころテンゾウの身に何が起こっていたのか、オレが知るのはずっと後になってからのことだ。
その夜のオレはただ、Sランク任務に向けて心を鎮め、淡々と準備を進めていた。
その合間に、ふとテンゾウの面影が浮かんでくることに苦笑しながら、ずいぶん会っていないなぁと再確認などしたりしていた。
こんな長の別れになるとは知らず、道端の花を摘んで花占いをする少女のように「会える、会えない」と自問を繰り返した。つむべき花びらはなかったので、コチコチという時計の秒針に合わせて、ただ繰り返していたのだ。