歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2006年06月26日(月) 人の不幸話で元気になる?

先日、うちの歯科医院にしばらく姿をみかけなかった患者さんの一人が来院しました。患者さんの名前はDさん。

「以前から定期健診の案内の葉書をもらっていたんだけど いろいろとあってこちらへ来ることができなかったんよ。」

と言われながら、診療室に入室したきたDさん。以前に比べ心持ち頬がこけ、お疲れになっている様子が見て取れたDさん、挨拶もそこそこに早速診療台の上に寝てもらい、口の中全体を診て、悪いところを治療していくことになりましたが、何本もの歯がむし歯になっており何回かの通院が必要でした。そのことをDさんに伝えますと
「やっと落ち着きましたから、悪い歯を治しにきますよ。 今まで歯が悪いことはわかってはいたんですけどね」と言いながらDさんは待合室に出て行きました。

その後、診療が終わり後片付けをしていると受付さんが僕に

「治療が終わってからDさんはかなりの時間私と話をして帰られましたよ。」

と苦笑いしながら語りかけてきました。 受付さんの話によれば、Dさんは下のようなことを言っていたそうです。

「実はね、私の主人が亡くなったんですよ。 つい数年前までは元気だったんですけど、たまたま健康診断へ行ったかかりつけのお医者さんのところでがんが見つかりまして、手術を受けたんですよ。手術はうまくいったんですけど、しばらくしてから痴呆が始まりましてね。最初のうちは”何をぼけたことを 言っているかしら、うちのお父さんは”って思っていたのですけど、そのうちにボケの症状が進んできたんですわ。最後の方は何も言わずに食べさせたり、おしめを変えたりと介護で明け暮れましたよ。 私ってどうしてこんなに年を食ってから苦労をしないといけないんじゃないかなと思うこと仕切りでしたよ。そんなこんなでお父さんが亡くなったのが数ヶ月前。やっと介護から開放されたと思っていると、お父さんが 隣にいないことに気がつきましてね。やっぱり寂しいですわ。」

そんなDさんが落ち込む姿を見た受付さんはDさんを励ましたそうです。

「それでも、Dさんは立派な息子さんがお父さんの跡を しっかりと継いでいるじゃいませんか?お孫さんも3人もいて。私の知り合いなどは、息子さん夫婦が共働きで二人が仕事の間お孫さんの世話をずっとしていたんですよ。それなのにいざ自分が体調が悪くなって介護が必要になった身なのに息子さん夫婦はほとんど知らん顔なんですよ。そんな知り合いの息子さんみたいな人じゃないでしょ。Dさんの息子さんは?」

受付さんの言った言葉を聴いたDさんは、突如目を輝かせながら

「うん、そうや。息子はちゃんと私の面倒を見てくれるしね。孫もしょっちゅう”おばあちゃん”って言って私のそばに遊びに来てくれるわね。この前も”おばあちゃんにプレゼント”って言って幼稚園で描いた私の絵を持ってきてくれたんよ。うれしかったわ・・・。」と息子自慢、孫自慢に終始したと受付さんは苦笑いしていました。

人の不幸を話のねたにするのはよくないことだと思いますが、人というもの他人の不幸の話に思わず身を乗り出して話を聞いてしまうものでもあります。
まあ、全く縁故関係の無い、利害関係の無い人の不幸話で悲しんでいる人の気を少しでも紛らわすことができるなら、それもそれでありかなと思った、歯医者そうさんでした。


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