My life as a cat
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2018年10月12日(金) 一山超えた

結婚しても、人の本質は変わらない。新しいものには興味があるし、日々あらゆるものに心を魅かれる。結婚して変わるのは、その対象が異性だった場合、まっすぐそれを追いかけていってはいけないという決まりができることだ。手に入らないから余計欲しいような気がしてくる。いっそ手に入れてしまえばおなかを満たした野生動物がもう他の獲物に興味を示さないように、すっと気持ちが退くかもしれない。でもそれとひきかえに一番大事だと信じてきたものを失う可能性も高い。

その人は国際感覚があって英語を話す。ここではまだ言葉の壁があって、文化や風習に対する理解もまだまだ。相手のジョークが理解できないなんてことは多々ある。だから、そこへすんなりと自分の言葉で会話を進められて、年も同じで、本や映画や美味しいものが大好きで、そんな人に会ってすっかり気を許してしまった。はじめは話していて楽しい、それ以上は思わなかった。でも相手は独身で身軽で、真っすぐこちらに向かってきた。偶然会うことが多くなって、話すことが多くなって、そのうちよく会うのは偶然なんかじゃなかったと気付く。日に日にその人のことが気になるようになって、このままではいけない、なんとかしなければと焦るから余計その人が心を埋め尽くすようになって・・・。

結婚したばかりでこの調子なの?動揺する。でもリュカに対する気持ちは変わらないし、この先もずっと一緒にいたい。じゃぁ、その人とは何がしたいのか?もっと知りたい。でもその次は?その先は想像がつかない。そもそも相手はわたしと何がしないのか??そんなことを話したらこの関係がもっと別の方向へ進んでいってしまいそうでとてもそんなことは口に出して聞けない。

いつか読んだ江國香織の「真昼なのに昏い部屋」という小説を思い出す。うろ覚えだが、自分がきちんと丁寧に生活することを何よりも重んじている主婦が、散歩の途中で会うイギリス人と少しづつ親密になっていって、ある日全て捨てて一緒に逃げてしまう話。でもこの話は決してハッピー・エンディングなんかじゃなかった。その男が興味を持ったのは籠の中の鳥のような人で、自分の意志で自由に飛ぶその人を見たら何か違うような気がしてきたというオチ。

自分が独身の時、既婚の男性を好きになったことがあった。結局はフラれた。わたしはフラれたことでその人のことをもっと"家族を大切にする人""約束したことをちゃんと守る人"だと尊敬するようになった。

色んな思いを巡らせて、心のどこかで悩みながら夏が終わった。そしてふとした瞬間に結論に達した。わたしは彼と話しているととても気持ちが良くなる。とても魅力的な人だから、これからも何かしら関わっていたい。彼が好きなのは今のわたしであって"家族を裏切る人"ではない、と思う。何よりも自分が彼にどう見られたいか。"心の良い女の人"だと思われたい。そこまで来て答えが見えた。

「あなたと話していると本当に楽しい」

そう伝えた。

「同じ気持ちで嬉しい」

と言ってくれた。そして、そこに"話す"以外のことは絶対起きません、というメッセージが含まれていると受け取ったのだろう、少しがっかりしたようだったけど、やっぱり相手も悩んでいたのか、ふっきれたように握手してくれた。

これでよかった。それからもよく会う。他愛ない世間話をする。わたし達の間に流れる空気は軽い。


Michelina |MAIL