My life as a cat
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2018年08月22日(水) ラテン言語男の甘すぎる挨拶

「僕の患者がね、"君の奥さんは綺麗だね"っていうから、"そうでしょー。それだけじゃなくて、彼女は頭もいいし、料理もうまいし、生活をよりよく創造するアーティストなんだ"って言ったの」

「あのね、日本ではそうやってお世辞を言ってもらったときは"いや、そんなことありませんよ"とかってへりくだって返事する文化だから、あなたのその返答はジョークにしか聞こえないわ」

「でも"そんなことありませんよ"なんて答えたら、"だったらならなんで結婚したの?"って不思議がられるじゃん」

まぁ、そうだね。外で自慢してるだけじゃなく、家の中でも同じテンション。朝、着替えてリビングへ行けば、素敵なドレス、どこで買ったの?カウチでうたたねしてれば、君の寝顔はエンジェル、とか(40歳過ぎてエンジェルとか言われてもね・・・可笑しくて吹き出しちゃうよ)。最初はこの人どこか頭でもおかしいのかしらと思ったが、出会った時と同じテンションで何年も毎日こんなことを言い続けているところをみるともうこれは挨拶なのだ。このテンション、パートナーだけではない。フランス、イタリア、スペインのラテン言語男の中で暮らしていると、あれこれ麻痺してくる。

髪を切る。リュカよりも先に隣人のドミニク(イタリア人)が近寄ってきて、

「髪切ったんだね。すごくよく似合ってる。きれいだよ」

などと甘い言葉を囁く。

リュカとパーティーへ行く。真っ先にリュカの仕事仲間のアレッサンドロ(またしてもイタリア人)が寄ってきて

「そのドレスすごく似合ってる。きれいだよ」

と長いまつ毛をばっさり振ってウインクする。このイタリア男ふたりは、あらゆる言語を操り、どんな女の子でも物怖じせず近寄っていっては軽快に会話を進める。教養もあるし読書もよくするから物知りで面白いんだな、これが。ラテン言語男と会話すると妊娠するというのはまったくのジョークではなさそうだ。ぼうっとしているとノック・アウトされてしまいそう。わたしは彼らのことを"インターナショナル・プレイボーイ"と呼んでいる。

ラテン言語男はプレゼントするのも大好きで、花からチョコレートからマルシェの果物まで色んなものを持ってくる。リュカはたまにやきもち節でいじける。でも自分もあれこれ女の子にプレゼントしてるんだから、結局彼らと生態は変わらない。

日本人的感覚ではあまり褒められたリすると口説かれているのかと思うのかもしれないが、大抵彼らには下心はない。本当に挨拶なのだ。20代の頃、綺麗なイタリア人の友人がいたが、彼女は群がってくるイタリア男達を軽くあしらっていた。

「あら、あなたわたしを誘ってるの?おっほっほっほ(と笑い飛ばす)。考えとくわ」

こういう男達からとっさに逃げる以外に思いつかなかったわたしは開眼した。そして、こんなやり方があるのか、でも自分にはできそうにないな、と諦めた。彼らはイタリア人同士挨拶を交わしているだけなのだった。

若いころは絶対受け入れられないと思っていた典型的なラテン系男のノリ。でもその中で暮らす今、彼らの良いところもたくさん見えてきた。彼らはお母さんやおばあちゃんなど家の中にいる女の人からはじまり外で会う女の人まで、とにかく女性を大事にする。

それにしても、何の変哲もない容姿のわたしを綺麗だと言ってくれるラテン言語男達と、大して出来ていないフランス語をちょっと話しただけで、よく頑張ってると讃えてくれるわたしの母くらいの年のリュカの患者達に囲まれて、わたしはここで甘やかされ過ぎている、と思う。彼らの優しい言葉はわたしへのエールだと受け取って精進しなければな。


Michelina |MAIL