My life as a cat
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2018年08月07日(火) 路地裏のコート・ダジュール

プレフェクチャーへ追加書類をドロップしに行った。

「列に並ばなくていいから。直接渡しにきて。わたしは毎日ここにいるから」

そう担当のおねえさんは言ったが、行ったらやっぱりいなかった。そんなところだろうと思っていたので驚かない。三つあるうちのひとつの窓口にアフリカ系の黒人の男の子が四人座っている。喋っているのは一人だけだが、窓口のおねえさんを説得するような口調でひたすらつらつらと喋り続けている。何分経っても彼らは動かない。おねえさんはひたすらNonと言い続ける。彼らも動かない。そのうち中から別の男性がでてきて、さらにもっと上の人がでてくる。窓口でずっと彼らの相手をしていたおねえさんは目に涙をためて一服に出て行った。移民の集まる場所はいつも何か不吉な予感がして走って逃げたくなる。

焼きパプリカのアンチョビ添えを作った。250度のオーブンで皮が焦げるまで焼いて、皮を剥いて、種とへたを取り、焼き汁ごと皿に並べる。塩をひとふり。アンチョビと極薄にスライスしたにんにくを散らしてオリーブオイルをたっぷりかけて出来上がり。南仏の家庭でよく食べられているもので、簡単過ぎるけど、脂の乗った魚の刺身のようにつるりと喉に通って本当に美味い。夕飯はこれにバゲットを添えれば十分。余ったのを冷蔵庫にとっておいて翌日食べるもよし。コート・ダジュールは今でこそ高級リゾートと呼ばれているが、18世紀くらいまではただの貧しい村ばかりだった。だから人々に食され続けている郷土料理は、太陽の下に放っておけばすくすく育つようなたくましい野菜や大して水がなくても生き延びるハーブなんかを使ったものが多い。ピサラディエールというタルトなどはピッツァのようだが、チーズは乗っていなくて、トマトソースか炒めた玉ねぎに数個オリーブが乗るだけ。ふだん草を練りこむ緑色パスタや、ひよこ豆の粉を水で溶いて焼くものだったり。すぐお隣のイタリアのリグーリアでも海が近いというのに郷土料理といったら干し鱈なんかを使った料理。海で獲れた良い魚は"売り物"で貴重な収入源だったから自分達は北のほうから入ってくる干し鱈なんかを食べていたんだとか。"高級リゾート"はどこかの高級ホテルの中だけで起きている話で、生活の中の染みを沢山刻んだ石畳の迷路の町の中では、貧しかった頃からの暮らしぶりが今も生き続けている。わたしが愛しているのは、こんな路地裏のコート・ダジュールだ。


Michelina |MAIL