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退職した恩師が最後に植えていってくれた野菜がちゃんと育って一揆に収穫時を迎えた。テレビで″霜降り白菜″の農家がちゃんと霜が降り過ぎないようにと口を閉じるように紐で括り付けているのを見て我も!と慌てた時には既に遅し、収穫間際まで成長していた。冬の間ずっと放ったらかしにしてたのだから食べられなくても文句は言いますまい。よっこらしょっと引っこ抜く。周りの葉を剥いで、中で大勢のナメクジがぬくぬくと暖を取り食事を楽しんでいるのを見て悲鳴をあげた。悲鳴を聞いてひとりのオヤジがのそのそとやってきた。農婦の悲鳴は虫以外にないと重々承知してるかのように。ナメクジがいっぱい這ってるし、緑色の小さな点がいっぱいついてるし、これは食べられないのではないかと思ったのだが、オヤジは一枚一枚丁寧に葉を剥いでいく。
「この緑色のはね、ナメクジのウンチ」
と、動じることなく、シャワーの水圧で葉を綺麗に洗っていく。
「おぉ、脇芽がでてるね。これが甘くて美味しいんだ」
真ん中の芯に黄色い花が開花しかけていて、その脇に沢山の脇芽がでて蕾になっている。
「芯はちょっと食べるには固くなり過ぎたかな。これは出汁にでも使えばいいよ」
オヤジは自分の子供でも風呂に入れるかのようにその成長ぶりにいちいち感想を述べ、嬉しそうに目を細めた。全ての葉と脇芽を洗いあげ、いかにも大事な物のように袋に入れて持たせてくれた。
白菜鍋にして、その甘さに驚いた。そしてハイライトだという脇芽もそれはそれは程よい歯ごたえでカリフラワーのようで美味しかった。売ってるやつは虫ひとつ付いてなくてすぐに食べられるけど、こういう脇芽とかのおまけはついてないものね。クロエちゃんも鰹節と一緒に煮たら喜んで平らげた。数時間前までナメクジが住んでいた白菜家は解体され、最高の白菜鍋となり人間と猫の胃袋に収まったのでした。