My life as a cat
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2016年01月15日(金) 焼きたてパンと朝摘みの花

朝、意中の人が焼きたてのクロワッサンと一輪の赤い薔薇を買ってきてくれた。わたしのような物欲の薄い人間には、高価な装飾品のプレゼントよりも、こんな何気ない日常のひとときに彩りを添えるような贈り物が何より心を打つ。″フランス人はお金をかけずに贅沢を楽しむ″といわれるけど、それは本当ではないかと思う。創意工夫でなんでもないことを贅沢に見せてしまえる能力は生まれた時から培われてきたに違いない。

これはイタリアの話だが、内田洋子さんの著書 「ミラノの太陽、シチリアの月」の中の″鉄道員オズワルド″というとても好きなストーリーがある。甘くて切なくて優しくて哀しくて、、、全ての感情が散りばめられたような濃密さで、何度読んでも感極まって泣いてしまうのだが、その一場面にこんなのがある。

鉄道員のオズワルドと妻のテレーザは共にヴェネト地方の貧しい小村で生まれ育った幼馴染だった。安住を求めてふたりとも公務員になる。職場で再会した際にオズワルドに雷が落ちた。大家族の家計を支えなくてはならず、宝石も買えず、映画にも誘えない彼は、副業でやっていたパン職人の仕事で自由になった小麦粉でテレーザに愛を伝えることを思いつく。職場への道中の森の中で木の実を拾い、野花を摘み、パンを焼いた。それは木の実入りのフォカッチャだったりピッツァだったり。焼きたてパンに毎日違う野花を添えて改札で働くテレーザに届けた。テレーザは焼きたてのパンを食べ、日替わりの花を押し花にする。押し花が100枚になるころふたりは結婚を決める。やがて娘も誕生する。。。。

このストーリーはここでハッピーエンディングとはいかず、何事も永久とはいかない人の生が続いていく。

薔薇をグラスに挿してテーブルに飾る。コーヒーを淹れて、朝食を摂りながら他愛ない会話をする。焼きたてのクロワッサンがすっかり冷えてしまっていることに冬の朝の寒さを実感し、コートの襟を立てて白い息を吐きながら買ってきてくれたのだと想像すると余計いじらしいではないか。こんな朝はこれからはじまる一日を良い予感で満たしてくれる。


Michelina |MAIL