My life as a cat
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2010年10月21日(木) オクイムさんという女性

夏の間暑さにやられてしまったのかじっと身を潜めていたカリフォルニア・ローズが、両手を広げてバンザイするかのようにぱっと一斉に花を咲かせた。カリフォルニアに住んだことはないが、パースと気候が似ているということからすれば、この昼と夜の気温差が好ましいのか。しかし、一年草は少し悲しい。来年の今頃はもういないのだ。

テレビ番組で、オクイムさんという韓国人女性の実話を見た。彼女はごく普通の家庭で生まれたごく普通の女の子だったが、7歳の時、母親の灯油の補充を手伝っていた時にそれにガソリンが混ざっていた為、爆発し大火傷を負った。驚いて悲鳴をあげたままの顔で焼き付けられてしまったように、顎と胸がくっついてしまい、そのせいで口は閉まらず、目も顎の皮膚に引きつられてあっかんべーをしているように開いている。手のひらはこぶしを握ったまま固まってしまったような形になっていた。わたしなどは見た途端にくじけそうになってしまったが、彼女は生きた。外出は一切せずひたすら家にこもりっきりで、それでも生きていた。ある日、父親の薦めでお見合いをしその男性と結婚した。自分の容姿が気にならないのか、と問いかけると、男性は答えた。

「はじめは気になった。でも、そんな容姿でどんなに苦労しても、一生懸命生きる君を見ているうちにもう容姿は気にならなくなった。」

初めて家族以外の他人に信頼を寄せ、息子も誕生した。しかし今度は旦那が突然死んでしまった。しかし息子はよく成長した。息子がいじめにあうことを恐れて相変わらず家から一歩もでず、写真は一枚も撮らなかった。息子は幼くとも彼女の一番の理解者となり、学校の行事には一切顔を見せない母に愚図って見せたりはしなかった。

やがて隣人の勧めで、テレビの力をかりてついに手術をすることになった。もう50歳を超えていた。しかし、何度にも及ぶ手術の結果、見違えるほど回復した。顎と胸を切り離し、そこに背中の皮膚を移植し、首ができた。それによって口も閉じるようになり、目も引きつられなくなった。そして人生初の買い物へ出かけ、初孫の靴下を買った。孫を目前にしても遠慮がちに遠くから見守っているだけだったが、やがて息子がほらっと彼女に抱かせた。そこにいるみんなが幸せそうだった。

なんて心の良い人なんだろう。どんな不運に見舞われても、自分に手の届く希望をしっかりと握り締めて生きてきた彼女の人生に、じわりじわりと光が差し込んでいく様子に胸を打たれた。降りかかった不運は彼女が自分で掴んだものではないにしろ、後の幸運は彼女自身が勝ち取ったものなのだろう。


Michelina |MAIL