DiaryINDEX|
past|
will
午後の静かな電車の中の出来事。
若いお母さんと幼稚園生くらいの子供二人が普通のトーンで会話をしていた。
「ママ、あれはなに? じゃぁ、あれは?」
そこに突然30代くらいの若い男が怒鳴って会話を遮った。
「静かにしろよ!!」
そしてその後数分にわたり母親にとんでもない言いがかりをつけはじめた。
「おまえが一緒になってしゃべってどうする?うるさい子供を黙らせるのがお前の仕事じゃないのか?お前のようなダメな母親に育てられる子供がかわいそうだよ。ろくな子になりやしないよ。しかし、お前の顔はすぐに離婚しそうな顔だよ。そのうち旦那に逃げられるだろうな、、、、」
顔をゆがませ、黙って俯くだけの母親。顔をこわばらせ沈黙した後わ〜んと泣き始めた子供の声が響き渡る。離婚しそうな顔って、、 、恋愛にすら縁のなさそうな顔で何を言うのかそう突っ込みたかったのはわたしだけではないだろう。無抵抗な弱者を一方的にやり込めるその根性の悪さに自分の中の正義感が疼き頭に血が昇った。しかし女をばかにしきった男に女のわたしがどう立ち向かえばいいのかうろたえた。
そこに一人のこれも30代くらいの背の大きいパリッとスーツを着た男性が立ち上がり、その男の前まで行き怒鳴りつけた。
「おいっ、オマエこそ黙れ!うるさいのはオマエだ。子供が泣いてるんだ。オマエは赤ちゃんが泣いてたらうるさいって言うのか。オマエの言ってること全てがおかしいだろ。母親に謝れ。」
この軟弱男はしばらく無駄な抵抗をしていたが、そのうちもうひとりの中年の男性も立ち上がり、
「オマエが悪い。謝れよ!」
と二人の男に捻じ伏せられ、声を上ずらせながら謝罪した。
「ごめんなさい。もう二度と言いません。」
ほっとした。東京は忙しく廻り続ける歯車のような暮らしの中で、自分さえ良ければいい、自分にさえ被害が及ばなければいい、人を思いやる余裕などない大人ばかりだと思っていた。この話の最後に救いがあってよかった。
アレンのバースデーはお互いに時間が取れず、カフェでケーキだけの小さなお祝いをした。アレンと同系の顔つきのウエイトレスが彼と話したそうに何度も水を継ぎに来ては彼の顔を覗き込む。こんなにアプローチされているのに彼は"thanks" と水のお礼を言うだけ。そのうち耐えかねて、彼女がわたしに笑いかける。
「もしかしたら彼とわたしは同国の出身じゃないかと思って。」
それでもアレンは素っ気なく彼女とは違う自分の出身国を答えるだけだった。彼女は愛らしい笑顔を微かに歪ませて去っていった。
シャイで男の子らしく、硬派なところに惚れていた。けれど、見ず知らずの女に簡単に素性を見せるないようにわたしにもなかなか心を開かなかった。それでも懸命にこじ開けて少しずつ心を許してくれるようになった。アレンは若くて希望に満ち溢れた男の子だと一緒にいるかも定かでない彼の未来に期待をした。それなのに今日は何かがおかしいと感じた。振り出しに戻ったような心の通わない会話に辟易した。
いつものように
"I'll see you on the weekend"
とハグをすると、
"I can't promise"
と言い残して去っていった。
そしてこれが彼にとって当分帰ってくることが出来ないだろう日本での最後の夜となった。