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夕方の散歩の途中、覚えのない番号からの電話を取ると懐かしい声がした。マーティンからだった。"How have you been?"と言われて、再会した友達の話や今年のパースの冬は天気に恵まれていること、再訪したレストランの様子などを話した。彼に新しいGFやそれらしい人などいないことは容易に想像ついたから、新しいBFのことなどは言わないでおいた。
わたしは彼と違って奥手なんかじゃないから、「新しいBF」なんてすぐに出来てしまう。けれど、新しい出会いに対する歓喜よりも、彼との別れの辛さのほうがよほど莫大で、そしてそれはきっと彼も同じで、ただただ少しずつ沢山のすれ違いを起こしてこうなってしまったことが切なくて、電話を切ってぽろぽろとこぼれる涙を止められないまま歩いた。
「アンタ、何泣いてるの!」という声に驚いて振り返ると、わたしが影で"オバチャン"と呼んでいるその名の通り近所のギリシャ人のオバチャンのヘレナがいた。ヒステリックでせっかちだから、みんなその勢いに恐れおののいているけれど、話してみればそう悪い人間じゃない。何でもかんでもずけずけと聞いてくるのだが、それは無神経だからといった感じではなく、わたしがBFと別れてここにひとりで戻ってきたのだと話した時など、悲劇の映画の世界に浸ってしまうように何故別れたのかとか、悲しいかとか、あれこれ聞かれて、その悪気の無さに力が抜けて何もかも喋ってしまったくらいだ。そして慰めてくれるのかと思いきや、「アンタはLazyよ。何年も家にステイして家事だけやってたなんて!アタシなんて何十年も休まず外で働いてるわっ。でも、あれね、アンタは養ってくれる新しい男を見つけなきゃね。アンタにはそれが一番ね、何せLazyなんだから!」と言い放った。こちらも負けじと"What!! I worked too hard at home!!"などと言い返して、いつも彼女と会うとこんな具合に言い合いがあって血の巡りが良くなった。
「男ね、アンタを泣かしたのは!Oh no, men always make problems. アタシの娘もアンタと同い年よ。男にふられて一年間泣いて過ごしたわ。」と言いながら抱きしめられて、その小柄な体型が日本の母とそっくりで、すっかり張り詰めていた力が抜けて号泣してしまった。それでもせっかちなヘレナは泣き止むのを待ってくれず、さっさと腕を振り解くと、また憎まれ口を叩きながら去っていった。母は強し。その小さいのに逞しい背中に少し勇気付けられた。