気がつきゃライブの時間だぜ
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2006年08月04日(金)   ◎文楽夏休み特別公演「夏祭浪花鑑」@国立文楽劇場

 
 久し振りの文楽でした。

 狂言は 「夏祭浪花鑑」。


 この狂言は わたしが 文楽を見始めた頃に
 たまたま 見て、
 もう 全身全霊で感激!

 帰りに 即 文楽友の会に入会し
 現在に至る、という
 いわば わたしと文楽を 決定的に結びつけた狂言なのです。


 主人公は 団七九郎兵衛、一寸徳兵衛、釣船の三婦、という
 三人の浪花の侠客のお話です。

 
 この三人が 
 人情が熱くて 粋で 男気があって
 めっちゃ 素敵なんですよね。


 それまで わたしは 健さんの映画とかに憧れる気持ちが
 いまいち わからなかったのですが
 この三人を見ていると
 男気に命をかける かっこいい世界やな、とか 思ってしまいました。


 この三人も かっこいいんですが
 それぞれの女房も すんげえ かっこよくて
 ダンナ以上に 度胸がすわってるんですよね。

 
 例えば 三婦の女房のお次は

 三婦が 数年前から 喧嘩をやめ
 腹の立つ時は 耳から下げた (なんで耳から下げてるんか知りませんが)
 数珠をさわって 怒りをおさえる、というような
 そんな仏の生活をしているわけなんですけど

 三婦が ちんぴらに侮辱されると
 お次の方から
 

 「コレこちの人、わしゃさっきから聞いてゐたが、
  こなさんもう堪忍がなるまいの」

 「かか、五、六年願ふた後生を無にして、
  いっそ切ってしまはざるなるまいわい」

 「ヲヲ、そんな事もよござんしょ」


 と 夫をけしかけ ちんぴらをこてんぱに のしてしまうんですよ。

 かっこいい!!




 しかしです。

 わたしは この狂言で 一番すきなのは
 一寸徳兵衛の妻 お辰です。

 徳兵衛は ささいなことで 
 故郷の備中玉島を追われてしまうのですが
 それが許されたと お辰が大坂に迎えに来て
 お世話になった三婦のところへ 挨拶にくる、
 その登場の場面が
 もう めちゃめちゃ きれいなんですよね〜! 


 黒の着物 (以前は呂の着物でしたが 昨日は涼しげな絣でした) に
 さわやかな浅黄色 (いわゆるスカイブルー) の半襟、
 それに 日傘をさして 
 あでやかに しかし 凛として 登場して来ます。


 20年前に見た時も 今日も
 人形遣いは 吉田蓑助。


 息をするのも忘れるほどの美しさです。


 そして 彼女は 
 ダンナと自分の主人筋のあたる人の息子が
 大坂にいられなくなったので
 玉島へ預かってくれと頼まれ
 快諾するのですが、

 その時 三婦が

 お辰があまりに美し過ぎる、
 若い男を預けて もしものことがあったら
 徳兵衛にも申し訳がたたないし、
 自分の顔も立たない、

 と 渋ると

 「一旦頼むの頼まれたのと言うたからには
  三日でも預からねばわしも立たぬ、
  アイ立ちませぬ」

 と、お辰は そばにあった火鉢の真っ赤に焼けた鉄弓を
 自分の顔に押し当て 傷を作り、

 「なんと三婦さま、この顔でも分別の、
  外という字の色気があらうかな」

 とせまるのです。



 ね、思うでしょ、 「そんなアホな」 って。


 文楽の世界って そんなんなんですよ。
 「そんなアホな。 いくらなんでも。」 って。

 でもね、三味線の音と浄瑠璃と人形をみていると
 「いくらなんでも、そんなアホな」 の世界に
 感動の涙を流してしまうのです。

 そんなふうに説得してしまうのは
 厳しい修行によって培われた 芸の力なんでしょうね。

 まさに そこは別世界が 繰り広げられているのだと思います。




 そして クライマックスは
 極悪人である舅の義平次を 団七が殺戮してしまう場面です。

 初演 (って江戸時代のことですけど) の時には
 ほんとうの泥が使われたという
 凄惨な場面なのですが、

 全身の彫り物をした団七が 見得を切るところは
 型の美しさもさることながら
 なんか こう ぞくぞくくるような色彩の美しさです。

 そこから感じる男気から 男の色気を感じます。

 めっちゃ かっこいいです。


 人形遣いは 吉田玉女。


 いや〜、かっこいいわ、玉女さん。

 昔から男前やったけど かっこいい!

 その団七の色気が 玉女さんの色気やね。


 


 そして その殺しの場面に
 浪花の夏祭りのシーンが 盛り込まれていきます。

 狂ったように 神輿をかつぎ あばれまわる若衆たちに
 耳に痛いセミの音のような祭囃子。

 その祭の騒ぎに乗じて
 団七が逃亡していくところで お芝居は終わります。


 祭りは 狂気だ。

 そんなことを 感じた場面でした。



 
 わたしが初めてみた時は
 団七は 吉田玉男さんやった。

 この前見た時は
 玉女さんが団七で 玉男さんが義平次やった。

 その時 玉男さんの義平次を殺す 玉女さんの団七に
 感慨深いものがあった。

 そして 今日は、
 玉男さんはいなくて 玉女さんの団七。


 伝統芸能って こういうことなんだな、と
 心に 落ちていきました。




 やっぱり 文楽 いいなあ。

 太棹の音が響くと なんだか安心する。
 この音は これからもずっと 続いていくんや、って。


 ちょくちょく行こう。

  
 
  


 

 
 


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