プラチナブルー ///目次前話続話

Bar雀
May,4 2045

間接照明の光が、奥行き7m程の店内の壁伝いにあり、5つの弧を天井に映し出している。
天井のダウンライトは北斗七星をイメージしたような配置で、磨きぬかれた木製のテーブルを輝かせていた。
シックな革張りの椅子と、カウンター奥、いわゆるバックバーのカラフルなボトルの色とが、
コントラストを奏でるかのように並んでいる。

バーテンダーの、いやオーナーのセンスの良さを感じさせるには充分な雰囲気の店だ。


「どうした、ふたりとも立ちすくんで」
「お好きな席にどうぞ」

雄吾がドアを閉めると、詩織のビジネスライクな声で、一寸止まった時間が再び動き始めた。

奥に2人連れの男性客が座っている。

中央付近の椅子を最初に引いたのは雄吾だった。
私の背中をそっと押すように、引いた椅子に座らせてくれた。

「ほら、誠也も、突っ立っていないで座れよ」
「は、はい」


「リカは、アルコールは大丈夫なのか?」
「うん。家族でワインを飲んだことしかないけど」

母や姉を見る限り、アルコールへの耐性は強い遺伝子のようだ。
同じ質問を誠也にもしている雄吾。
カウンターでは詩織がおしぼりの準備をしている。
すっかりバーテンダーの仕事が板についている感じだ。

(何でまたこんなところで働いているのだろう。進学したって聞いていたのに・・・)


詩織が雄吾におしぼりを渡した。

「こちらへは、初めてですか?」
「うん。後輩の友人がいると聴いてね」
「ああ、なるほど、龍正先輩の・・・」
「ええ、しかし若い女性のバーテンさんも珍しい」
「私が任されているのは10時までで、そこからは忙しくなるので先輩が・・・」
「なるほど、実は今夜来たのは・・・」

来店した経緯を雄吾が詩織に話し始めると、詩織は言葉を交わしながら、
リカと誠也にもおしぼりを渡し、テーブルに布製のコースターを置いた。


詩織は口元に微笑を浮かべてはいるものの、一瞬、横目で私のほうを見た。
それはまるで、
「なんで、アンタが誠也とここに居るのよ」
と、語りかけているような気がした。

誠也は、ただ黙って詩織の横顔を見つめている。

「ジントニックを3つ」
「はい」

詩織がカウンターの向こうで身を翻してグラスを用意し始めると、雄吾は首をひねった。

「あのバーテンさん。何処かで会ったことがあるような・・・」
「部長。アタシと一緒に、誠也君の観戦をしていた女子高校生ですよ」
「あ、あの時のか・・・」
「はい」
「・・・っことは、誠也」
「ええ」

ようやく誠也が言葉を搾り出すように発した。

「あちゃ〜。道理でテンション低目なわけだ」

雄吾は左手で自分の顔を掴むようなポーズで、2度3度、頭を横に振った。


テーブルにグラスが3つ並んだところで、雄吾が椅子を60度ほど右に回転させ、

「それでは、リカの麻雀と、誠也の未来の恋に、乾杯しよう」

と音頭を取った。

「かんぱ〜い」

なんとなく不穏な空気を感じていたアタシは、部長の気遣いで心が穏やかになった。
グラスがぶつかり合う音色が心地よく響く。

「はい、誠也君もかんぱ〜い」
「ん、乾杯。さあ、飲むぞ」

と云うや否や、私の持つグラスから音色の響きが消える前に、誠也はジントニックを飲み干した。

あっけに取られた私を他所に、

「おいおい、豪快な奴だな」
「ええ、体育会系ですから」
「酔っ払っちまったら麻雀どころじゃなくなるぞ」
「大丈夫っす」

会話しながら、部長は詩織に人差し指でおかわりのサインを送っている。


「リカ、麻雀は面白いか?」
「うん。楽しいよ〜、あがれる時は・・・ね」
「ははは」
「部長は、いつ頃から始めたんですか?」

部長と誠也の麻雀を始めたきっかけから現在までの話を聞き入りながら、
腰を落ち着けて30分くらい経っただろうか。

「ああ、誠也君、耳が真っ赤だ」

私は誠也の赤い耳を掴んで振り向かせた。
普段は二重瞼の大きな瞳が、眠そうにうつろになっている。

「リカしゃん、麻雀打つか〜。あ、この耳、ロン」

私の右の耳を指先で掴み、ろれつの回っていない声の彼。

「あはは、できあがっちまったな、誠也。ちょっとトイレだ」

部長は私と誠也の頭を撫でながら、奥にある化粧室に入った。

奥の2人連れの客についていた詩織が、雄吾のためにおしぼりを準備し、私達の前に来た。

「なに、アンタ達、つきあっているわけ?」

唐突に詩織が私達に言葉をぶつけてきた。

(なにを言い出すかと思えば、この子は・・・)

私は心の中では即座に否定したものの、変換する言葉を失った。
すると、誠也の左腕が私の腰にのび、そのまま体ごと彼のほうへ引き寄せた。

「詩織・・・お似合いだろ? 僕達…」

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