陶 房 日 報  とうぼうにっぽう 
陶房かまなりや

2010年04月20日(火)      や ま

 映画 『劔岳 点の記』 を観ました。
 とても良い映画でした。そこで、原作
 を購入し読み始めました。新田次郎氏
 の本は随分前に何冊か読んでいました
 が、久しぶりに読むその文体は精緻で
 整い、知性に満ちていて高尚です。
 物語は陸地測量官柴崎芳太郎が、越中
 劔岳の登頂と、測量用の三角点埋設の
 任を受け、前人未到の霊峰に挑むとい
うもの。そこに日本山岳会が絡みつつ、地元の案内人
宇治長次郎と測量隊の奮闘が描かれます。

山岳会は未踏峰への初登頂に意義を見出し、西欧の
登山技術を駆使し山頂へ挑みます。かたや柴崎隊は
測量の任務を受け、登るだけでも険しい山に測量用
機材を携え、山頂に覘標(てんぴょう)やぐらを組み
あげ、さらに標石を埋定するという心身ともに重い
荷物を負っての難事業です。物語はそういった人々
の心の動きを丁寧に描写して進行します。

私は登山にはまったく興味が湧きませんが、なぜ人が
山に憑かれ頂を目指すのかは解るような気がします。
街という人が安心して暮らせる場所から離れて山岳に
分け入り、単身若しくは少グループで難所を乗り越え
て目的を達成することで堪えられない 『生』 の手応え
を得るのではないでしょうか?そしてその挑戦の間中、
生身の自分を客観的に見つめなおし、自問自答を繰り
返すことで心身ともに頑健さを増し、強い生き物に
成長することを実感し、充実するのでしょう。

ともすれば、スポーツでも、文化的な趣味活動でも、
打ち込みすぎれば自虐行為にほかならないと思います
が、人は死にそうにならないと、生きている喜びを味わ
えないのかもしれません。マラソン然り、盆栽然り、
そして登山は、その真骨頂でしょう。山をやる人は
何となく哲学的です。それはきっと登山をしながら
本当に沢山のことを考えているからなのでしょう。

映画 『劔岳 点の記』 公式サイト




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