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私は会社に所属していない。 私は組織に所属していない。 私は誰かに所属していない。 もっと現実的なことを考えてみる。バスが岡山に着く。ジーンズで来てしまったのでとりあえずそのへんのこぎれいな店でこぎれいに見えるスーツを2着ほど買う。登録だけは済ませてある派遣会社数社に電話をし、岡山周辺での仕事の斡旋を依頼する。高望みさえしなければそんなものはすぐに見つかる。マンスリーレオパレスの契約をし、翌月給料が振り込まれるまでをしのぐくらいの蓄えはある。それにいざとなったらそのへんの派手めな店で派手めなスーツを2着ほど買い、濃い色の口紅を買っていつもより少しばかり丁寧に化粧をし、せいぜい若作りをしてトシをごまかし、ホステス募集の看板を出している店に駆け込めば良い。数晩笑って歌って酒を飲めば元は取れ、もう数晩笑って歌って酒を飲めば少しは楽にやっていける。作り笑いの売り方くらい知っているのだから。 話が非現実に逸れたところで方向を修正する、私が「売れる」ものはキーボードを叩く速度であり数種のOAを扱う能力であり電話口でべらべらとよどみなくまくし立てる話術でありそしておそらく一番重宝されるであろうものはある種の契約に関する膨大な知識である。ややこしい制度が導入されようとしている今、某社のシステムの隅から隅までをくまなく知り尽くしていることが履歴書から滲み出している私を店頭に欲しがるショップは少なくないはずだ。だいたいここら界隈で長く勤めている人ならばあからさまな蔑みを含ませた慇懃無礼な物言いと私の名前は即座に結びつくだろう、「あいつか!」。 あいつだ、自分の名前を一音一音区切ってわざとらしく発音し、喧嘩を売るあいつだ、hello, hello, hello,hello, HOW LOW? 話がさらに非現実に逸れたところで再度方向を修正すると、私がこのまま大阪の自宅へ帰ることなしに、岡山でも、広島でも、松山でも、博多でも、アクセントの問題があるので気が進まないがなんならフォッサマグナの東の方でも、なんとか暮らしていくくらいのことは即座に可能なのだ、ということである。 そのような、可能性のとてつもない「開かれ」を、自宅の狭苦しい部屋の机の前で、私は刻一刻灰にし続けているのだ、ということに気づいたらもう、大阪に帰ることなど到底できないような気がしてきてぞっとした。 帰るべきか、帰らざるべきか? 冗談で書き始めたつもりなのに書き終える今になってみるとこの問いが妙に真実味を帯びはじめていることに軽い恐怖を覚えつつおやすみ。 |