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2006年03月09日(木)   黒い羊の狼狽

ネズミ男は無責任だとも卑怯だとも言わなかった。かわりに、分厚いメガネの奥で目をしばたかせながら、ただ、黒い羊のこれまでの「功績」を滔々と語った。それが自尊心に訴えかける、という方法の一環であることくらい黒い羊にも分かっていたが、痛罵される覚悟をしていただけに肩透かしを喰らい、思わず半歩ほど譲歩をしてしまいそうになった。

だが幸いなことに今、黒い羊の蹄は先のとがったハイヒールのせいで痛んでいるのだ。片足を祭壇にかけた状態で踏ん張ることなど、できやしない。

ネズミ男は黒い羊の功績を数え上げて目の前に陳列し、美辞麗句でもってして―たとえば黒い羊が研修をしている姿は身震いがするほど素晴らしかっただとかいうような歯の浮く科白を並べてみせて―ほめ殺し、もったいない、此処で降りてしまうのはもったいない、とため息まじりに黒い羊の顔色を何度もうかがった。それでも黒いものは黒いのだ。サフォーク種の羊並みに黒いのだからたとえ顔色がかわったとしても見分けられるはずもない。黒い羊は首を横に振り続けた。

そうして1時間ほどが経過した頃、ついにネズミ男は、分かりました、今までのご尽力に深く感謝いたします、と言って黒い羊の申し出を受け入れたのだけれど、

なんだよこれぢゃあ全然「黒い羊」なんかじゃないじゃないか、今月いっぱいこのシリーズで乗り切ろうとしていた「私」の目論見はいったいどうしてくれるんだよ、と黒い羊は狼狽した。

しかし最大の敵はおそらくネズミ男ではない。


nadja. |mailblog