月に舞う桜

前日目次翌日


2008年06月03日(火) Beautiful Harmony(2)

(昨日のつづき。5月30日のAfrica Mission2008の話です)

TOSHIは、新曲の「EARTH IN THE DARK〜青空にむかって〜」を歌った。
ソロの曲を、初めて生で聴いた。Xの曲を歌うときとは別ベクトルの、強い想いがこもった声だった。確か、歌詞の中に「君が生きた証」というフレーズがあったと思う。その言葉が印象的だった。
「どんなに暗い世界でも、ひとりひとりの心に必ず青空がある」とTOSHIは言う。
Xの世界は「破滅に向かって」だ。生きることそれ自体が、少しずつ確実に破滅に向かっていることに他ならない。Xの曲はそれを意識させることで、逆に「生」の強大なエネルギーを突きつける。
TOSHIのアプローチは違う。たぶん、「生」の美しさが、やがて訪れるであろう破滅さえも包み込んでいる。
破滅に向かって突き進む「生」と、破滅の中に一筋の光を与える「生」。
TOSHIは、「Xでもソロでも、やりたいことは同じ」と言った。何となく、分かるような気がする。方法が違うだけで、TOSHIにとって意味は同じなんだろう。
生きている、ということ。

「EARTH IN THE DARK」というタイトルを初めて目にしたとき、私の頭に真っ先に浮かんだのは、人工衛星「かぐや」が送ってきた映像だった。
暗闇に、ぽっかりと浮かんだ地球。それは、ほのかに光って見えた。暗闇の中にあるからこそ、光を放っているように見えるのだろうと思った。
「生」の美しさや輝きとは、そういうものなんじゃないだろうか。
TOSHIが込めた意味合いとは少し違うかもしれないけれど(TOSHIは「でも」で、私は「だからこそ」)、私はこの曲のタイトルからそんなことを考えた。

歌のあと、女性司会者の質問に答える形で、アフリカへの思いを語った。
アフリカへは行ったことがない。でも、とても関心がある、と。

薬害エイズで亡くなった少年がいる。彼は絵を描くこととX、特にTOSHIが大好きだった。天に召される直前まで、彼は病床で絵を描いていた。それが、まだ髪を逆立てていた頃のTOSHIの肖像画だった。
その絵はポストカードになり、写真立てに入れて私の部屋にも飾ってある。天を仰いで叫ぶ、TOSHIの横顔。TOSHIの魂の歌声が聞こえてくる絵だ。
その絵がきっかけで、TOSHIは薬害エイズの被害に遭った人たちとの交流を始める。そこから、アフリカのエイズ問題にも関心を持つようになったそうだ。

U2のボノが立ち上げた「RED」というエイズ支援のプロジェクトがある。それに自分も協力したい、とTOSHIは言っていた。
プロジェクトにはアルマーニも参加しているそうで、「今日の僕のこのスーツもアルマーニなんですが……」と。
やけに光沢のあるスーツだなと思っていたら、アルマーニだったのか。いいもの着てるなぁ。ドームの衣装もアルマーニだったのかな。

TOSHIの歌が1曲だけだったのは残念だったけれど、他の人よりトークが長くて、X再結成にいたった経緯や想いをTOSHIの口から直接聞けたことは、本当に大きな意味があった。内容は、インタビューやドームライブのパンフレットなんかの活字を通して既に知っていることがほとんどでも、すぐ近くで生身のTOSHIが自分の声、自分の言葉で語ると重みが違う。特に、ロスのスタジオで初めてWithout Youを聴いたときのことをXファンじゃない人も大勢いるところで話してくれたのが、嬉しかった。

「『この曲どうしたの?』ってYOSHIKIに訊いたら、HIDEが……HIDEはギタリストで、10年前に死んでしまったのですが、彼が死んだ直後に書いた曲だ、って。ああ、だからこんなに儚いんだなぁと思いました。Without Youというのは『あなたなしで』という意味です。あなたなしで、あなたはもういないけれど、それでも生きていく。前を向いて生きていくんだ、って、そういう曲だと思いました」

TOSHIはこのとき、自分がやりたいこととYOSHIKIの音楽に接点を見出したのだろう。

最後に、ジェット・エドワーズという黒人ミュージシャンと彼が率いるアフリカン・バンド、それに出演者全員が登場してセッションした。
もちろんTOSHIもいたけれど、やや控えめな参加の仕方だった。BLENDZの二人とアフリカン・バンドの女性がメインでボーカルを務めたので、TOSHIはジェット・エドワーズに振られて時々歌う程度だった。

アフリカの音楽は、やっぱりスケールもリズム感もノリも日本とは全然違う。特に、あのリズムは日本人にはなかなか出せないんじゃないだろうか。それに、全身を使って表現するからアフリカの大地みたいにダイナミックだし、演奏者が底抜けに明るくて楽しそうなのだ。とにかく、陽気。
アフリカの打楽器がたくさん使われていたけれど、ボンゴくらいしか知らないので、せっかくだから詳しく紹介してくれると良かったのになぁ。

永遠に続くかのような太鼓と笛の音の中、締めのメンバー紹介をする司会者に一言求められて、TOSHIが「みんなで世界を平和にしようぜー!!」とX風味に叫んだ。

予想より長いコンサートで、3時間はあったと思う。
ホールから駅に向かう途中で見たコスモクロックは、10時半を過ぎていた。

このコンサートのことを知ってからずっと、TOSHIの「Beautiful Harmony」という曲が頭の中でぐるぐる回っている。生で別の曲――「EATH IN THE DARK」を聴いたあとでさえ、相変わらずBeautiful Harmonyの力は弱まることなく私の中で流れ続けている。
95年に発売されたアルバム『GRACE』に収録されていて、TOSHIの曲の中で1,2を争うくらい好きな曲だ。
チャリティーコンサートにぴったりの曲ではないかと思う。歌ってくれることを少なからず期待していたのだけど、まぁ、新曲が出たばかりだから、そっちを歌うのは仕方ないか。

歌詞を紹介したくて歌詞検索サイトを渡り歩いたけれど、残念ながらどこにも載っていなかった。
もし良かったら、機会があればぜひ聴いてみて下さい。一人でも多くの人に、歌詞に込められた意味やこの歌が作り出す世界を感じて頂けると嬉しいです。

The day will come
Brothers & sisters will live as one
We'll sing a song
And live in Beautiful Harmony
(TOSHI「Beautiful Harmony」より)


桜井弓月 |TwitterFacebook


My追加

© 2005 Sakurai Yuzuki