月に舞う桜

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2006年11月23日(木) 貴方のように、子供の味方で

作家の灰谷健次郎さんが亡くなったそうです。
中学時代、灰谷さんの小説ばかり読んでいた時期がありました。
私は、中学校という場所があまり好きではありませんでした。ちょうど世の中の不条理や生き辛さというものをだんだん感じ始め、でもそれを自分の中でうまく言葉にすることができない年頃だったというのもあるでしょう。あの頃、表向きは優等生だったけれど、内面はぎすぎすしていたように思います。
そんな中、灰谷さんの『砂場の少年』や『少女の器』や『兎の眼』を読んでずいぶんと救われたものです。「あぁ、大人の中には、こんなふうに子供の味方もちゃんといるんだなぁ」と安心したのをよく覚えています。子供が感じている痛みや怒りをきちんと分かっていて、子供の味方でいようとしていて、その思いをちゃんと言葉にして人に伝えられる大人がいる、それだけで世の中にちょっと希望が見えるような気がしました。そして、言葉で人に救いや希望を与えられるなんて、作家ってすごいなぁとも思ったものです。
高校に入り、『天の瞳』を2巻目くらいまで読んだのを最後に、私は自然と彼の小説を卒業していきました。でも、本棚の奥には今でも文庫本が何冊か並んでいます。ときどき本棚を整理して、「もう要らないな」と思う本を処分するのですが、灰谷さんの小説を捨てたり売ったりしようと思ったことは一度もありません。今の私は彼の言葉がなくても生きていけるし、もしかすると彼の小説は私にはもう必要なくて、二度と読むことはないかもしれない。それでも、たぶんこれからも手放す気にはならないだろうと思います。
灰谷健次郎さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。
そして、私が少しでも灰谷さんのように子供の味方でいられますように。そんな大人が一人でも多くいる社会になりますように。


桜井弓月 |TwitterFacebook


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