月に舞う桜
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タバコの煙と並べられた料理と笑い声と喉を流れていく冷たい飲みもの。それから、湿った空気と夜の灯りたち。 その中に身を委ねながら、なぜか頭の中ではMr.Childrenの『Monster』がずっと流れていた。桜井和寿が、あの声で「全裸でいるのは宗教上の理由だ 慈悲の御心で世界を救う」と歌う。
慈悲の御心で世界を救う、か。
少しでもアルコールの入った頭で家に着くと、決まって特殊な感覚に陥る。寂しさと心細さに隠し味程度の安堵感が混じった気持ち。居るべき場所にきちんと収まったのに、一人ぼっちで放り出されたような、どこへ行けばいいのかちょっと分からないような感じ。 悲しいわけじゃない。むしろ楽しさの余韻を心地良く引きずっている。 私には、いろんなところに居場所がある。大勢の中にいて笑っているのにガラスの仕切りで囲われているような隔たりは、いつからかあまり感じなくなった。 それでも、きっと私はまだ帰るべき場所を探している。「ここではないどこか」を探し続けている。それが「誰かの腕の中」だなんて思っているうちは、たぶん見つからないんだろう。分かっていてもふと求めてしまうのは、 それもきっとアルコールのせいだ。
桜井和寿が歌うまでもなく、私はモンスター。 世界は誰にも救えない。それでいい。 私はモンスター。あなたもモンスター。
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