* たいよう暦*
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祖母が80歳の声をきくようになった頃、息切れが激しくなりました。 「もう、年やからなあ〜」 散歩に行くのも、階段を上るのも、なんだかとってもつらそうに、ゆっくりゆっくり。 行動範囲もせばまりました。 本人も、まわりの人間も「これが年ってもんなんだ」とずっと思っていました。
そんなある日、学校から帰ると母が、 「おばあちゃん、手術することになったよ」
実は息切れは、ちっとも「年のせい」なんかじゃなく、「心臓のせい」。 なんと、祖母の心臓は普通の人の半分以下、一分間に30回〜40回しか脈うってなかったのです。 風邪気味で病院にいってみてもらったら、聴診器をもった先生が 「?・・・?・・・?!」 そのまま、即検査、即入院、即手術となりました。
ペースメーカーというものを体の中に入れて、脈をうつのを助けることになりました。 「手のひらにすっぽり入る大きさですよ」 と説明されたその機械は、どういう仕組みかはよくわかりませんが、着実に祖母の心臓を助けてくれました。 手術をしてから亡くなるまでの約10年間、毎日毎日祖母の体の中で、心臓のそばで、きちんと働き続けていました。
今、私の手元にはそのペースメーカーがあります。 最近のペースメーカーはどうなっているかわかりませんが、その頃は、亡くなると、必ず骨にする前に取り外すようにと言われていました。 高温になりすぎて、爆発する危険があるからとのことでした。
祖母は、自宅でゆっくり息をひきとりました。その後病院で、ペースメーカーをとりはずしてもらいました。 それが、人間の体の中に入っていたとは思えないほど、つるりとしていて、ひかっていて、びっくりするほど硬質です。 そんな小さなものが心臓を助けていてくれたんだと思うと、なんだかとても不思議な気がしました。
きっと父も母も、ペースメーカーを取り外した後どうしたかは、葬儀の準備の忙しさにとりまぎれて覚えていないでしょう。 私は誰も興味をもたずに置かれていたペースメーカーを、「形見わけにもらおう」と勝手に決めて、誰にも言わずに机の引き出しにしまいました。
そのペースメーカーを引き出しにしまった日から13年目の今日。 十三回忌がいとなまれました。 祖母の子供や孫やひ孫があつまり、お仏壇の前で手をあわせました。
机のひきだしの中にしまいっぱなしの、ペースメーカーにも、そっと手をあわせました。 今も誰かの体の中にはこんな小さなものが入っていて、そしてその人の心臓を助けているのかと思うと、ちょっと不思議になります。 そして、その小さな機械の働きを、携帯電話の電波が邪魔をするのかと思うと、心が痛みます。
この小さな機械の働きを、どうかさまたげることのないように。 自分の携帯電話の使い方を、もう一度考えなおそうと思いました。
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