こんな一日でした。
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2005年11月10日(木) ミスドのお姉さん

今日は福島のカルチャーの日。
この日は駅前のミスドでお昼を食べることにしている。甘いドーナツとしょっぱいパイ、お代わり自由のコーヒーで、本を読むこと、小一時間。いったん、物語世界に逃げ込んでから、勢い付けて教室に行く。

引きこもり傾向の強い私は、人に会うことに、非常なる緊張を感じる。生徒のみなさんに会うのは、とても楽しいのだけど、親戚でも、友達にでも、会う前は必ず、えいやっ!っという前準備が必要になるのだ。

今日の単行本は、久しぶりに宮部みゆきの「龍は眠る」を再読。ここのところ、宮部みゆきを10冊近く、連続読みしている。これがまた、涙しぼられる、切ない物語。それでいて、手に汗握るストーリー展開。電車で読んだ続きを、早く読みたくて、大急ぎでドーナツを注文。
「エンジェルフレンチと、セサミポテトパイと、肉まんと、コーヒー」
それらを受け取ると、いそいそ着席。ページを開いて、パイをパクリ。

…と、そこへ、さっきのレジのお姉さんがやってきた。
すでに、物語は佳境にさしかかっている。私は真剣に登場人物に共鳴してしまっているので、眉間には、まるで渓谷のごとき皺を刻んで本を開いていたに違いない。しかし、口にはパイをほおばっている。

そんな妙な姿で顔を上げると、レジのお姉さんがひどく申し訳ない顔で何か言っている。至近距離で話してくれているにもかかわらず、物語と現実の狭間に落ちてしまって、お姉さんの言っていることが、全くわからない。

「え?」と私。ものすごく焦りながら、申し訳なさそうに、お姉さんは何か言っている。どんなに集中しても「肉まんを」という部分しか聞こえない。2〜3回聞き直しても、理解できなかった。

同じ東北でも、宮城と福島では言葉が微妙に違う。宮城の中ですらずいぶん違うのだ。お姉さんは、申し訳ない気持ちで、急いで私に何か伝えたかったばかりに、ものすごく早口になっていた。私には不思議な節回しでラ〜ラ〜♪と、歌っているようにしか聞こえない。
しかし、決してお姉さんは聞き取れないほど訛っていたりしたわけではない。私の魂が現実から逸脱していたせいと、彼女があまりに焦っていたことが原因だったと思う。

ものすごく気持ちを集中してやっと理解したのは、
「お客様、肉まんを注文されましたが、私は肉まんをお渡しするのも忘れたし、お支払いいただくのも忘れていたのですが、肉まんをお食べになりますか?」ということなのだった。
それまでのやりとりに、店内の客は知らぬ振りをしつつも、私とお姉さんのやりとりに耳ダンボ。
「あ、は、はい。食べます」店の中に私のまぬけな返事が響く。

お姉さんは、とても親切に、申し訳なさそうに、ほかほかの肉まんを持ってきてくれた。またしても早口で詫びつつ。私にはその詫びる言葉も、やっぱり良く聞こえなかった。
ただ、お姉さんの声はとっても可愛くて、あやまってくれている顔もやたら可愛くて、瞬きもせずに私の顔をのぞき込む目もぱっちりしてて可愛くて、私は何だか嬉しい気持ちになってしまった。

言葉が聞き取れなかったけど、焦りに焦っている気持ちのかたまりが、ボムッと私のほっぺに押しつけられたような感覚がした。それは、とてもやわらかくて、つやつやした表面を持っている、上等のクッションみたいだった。

お姉さん、なんて言ってるけど、私よりずっと若いんだろうな。
私は、可愛いものに目がないので、もしかすると、お姉さんがただ可愛かったから、可愛いな、と思うことにいっぱいで、言葉が聞き取れなかったのかもしれない。…変なおばさんである。


Oikawa Satoco |MAIL

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