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■ あいあいがさ【亜美うさ】
多分原因はいつもの浮気。うちの実写うさぎちゃん多分いつか誰かに刺される。
「……もぅ」 玄関あけるなり大きなためいき。 家の中に戻るか一瞬迷ったけど、結局傘立てからお気に入りを一本抜いて雨の中に歩き出した。 「さっきまであんなに晴れてたのに」 めんどくさい彼女。 メールも電話も出てくれないなんて、こっちも怒るよ。 逆ギレだけどさ、そこまでしなくてもいいじゃん。 心の中でぶつぶつ文句を言いながら、しとしと降る雨を蹴りけり歩いていく。 目的地はどこにしよう。 どこまで行けば会ってくれるんだろう。 記念日とか忘れないひとだから、思い出の場所なんかいいかな。 ふらふら、歩きつく、橋の上。 足を止めて、傘をたたむ。 一気に濡れ渡る、髪も肩も。 慌てたように水を跳ね上げる足音、仰ぐ空から雨雲が消える。 「風邪ひくよ」 怒ったような声で傘を差しだす相手に振り返って、だったらこんなことしないでよ、と言いかける。 でも我慢。怒らせたのはあたしだもんね。 「亜美ちゃんも、濡れてるよ」 あたしに差し出した分だけ、傘から外れた体に雨のしずく。 「うさぎちゃんのせいだよ」 「ごめんね」 用意していた言葉だから、なんのためらいもなくそう答える。 亜美ちゃんは不満そうに眉を寄せた。 「いい加減に謝ってるわけじゃないよ。ちゃんと、悪いと思ってるよ」 「……嘘だよ」 「ほんとだよ?」 可愛らしく、子猫のように首を傾げてみせる。弱いことを知っているから。 「……ずるい」 こうして怒って、でも絶対許してくれることを知ってるの。 ほら、もう雨音は遠ざかって、空はまた晴れ。 「亜美ちゃんが、いちばん好きだよ」 傘を握る手に手を添えて、一歩の距離を閉じて、ひとつの傘に収まれば。 青い傘の頭上はるか、綺麗な虹が架かる。 めんどくさくて、かんたんな彼女。 「だいすき」 傘に隠れて雨粒より小さなキス。 亜美ちゃんは、仕方なさそうに、でも待ちきれなかったように、キスを返して許してくれた。
2003年03月08日(土)
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