あいあいがさ【亜美うさ】

多分原因はいつもの浮気。うちの実写うさぎちゃん多分いつか誰かに刺される。





 「……もぅ」
玄関あけるなり大きなためいき。
家の中に戻るか一瞬迷ったけど、結局傘立てからお気に入りを一本抜いて雨の中に歩き出した。
「さっきまであんなに晴れてたのに」
めんどくさい彼女。

 メールも電話も出てくれないなんて、こっちも怒るよ。
逆ギレだけどさ、そこまでしなくてもいいじゃん。
心の中でぶつぶつ文句を言いながら、しとしと降る雨を蹴りけり歩いていく。
目的地はどこにしよう。
どこまで行けば会ってくれるんだろう。
記念日とか忘れないひとだから、思い出の場所なんかいいかな。
ふらふら、歩きつく、橋の上。
足を止めて、傘をたたむ。
一気に濡れ渡る、髪も肩も。
慌てたように水を跳ね上げる足音、仰ぐ空から雨雲が消える。
「風邪ひくよ」
怒ったような声で傘を差しだす相手に振り返って、だったらこんなことしないでよ、と言いかける。
でも我慢。怒らせたのはあたしだもんね。
「亜美ちゃんも、濡れてるよ」
あたしに差し出した分だけ、傘から外れた体に雨のしずく。
「うさぎちゃんのせいだよ」
「ごめんね」
用意していた言葉だから、なんのためらいもなくそう答える。
亜美ちゃんは不満そうに眉を寄せた。
「いい加減に謝ってるわけじゃないよ。ちゃんと、悪いと思ってるよ」
「……嘘だよ」
「ほんとだよ?」
可愛らしく、子猫のように首を傾げてみせる。弱いことを知っているから。
「……ずるい」
こうして怒って、でも絶対許してくれることを知ってるの。
ほら、もう雨音は遠ざかって、空はまた晴れ。
「亜美ちゃんが、いちばん好きだよ」
傘を握る手に手を添えて、一歩の距離を閉じて、ひとつの傘に収まれば。
青い傘の頭上はるか、綺麗な虹が架かる。
めんどくさくて、かんたんな彼女。
「だいすき」
傘に隠れて雨粒より小さなキス。
亜美ちゃんは、仕方なさそうに、でも待ちきれなかったように、キスを返して許してくれた。


2003年03月08日(土)
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