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■ “8人目”【ロビナミ】
まだ短い付き合いかもしれない。 でも無表情な顔から――だからこそかもしれないけど――隠してるはずの不機嫌さをびしびし感じるくらいには彼女のことが分かってきた。 そうよ、ただでさえ普段意味不明な微笑みを浮かべ続けてるんだもの。無表情って時点でなんかあるなってのは分かる。 「で、何が気に入らないの、それの。興味深いって顔じゃないけど?」 手元には、私がローラからもらったビブルカード。 ルフィと違っていつも身につけてるものに縫い付けられそうなものがない私は、どうやってそれを管理しようかと思って思案していたところを取り上げられたのだ。 「別に」 「いやいや、子供かあんたは」 ふいっとそっぽを向き、ひらひらとビブルカードを手放すロビン。大事なもんだっつーの。 テーブルの上に舞い落ちたそれに手を伸ばそうとすると、強い磁力に引かれるように、紙が動き出した。奇しくもたったさっき別れたばかりのローラたちがいる方角へ。 「さみしいね」 ナミゾウと私は姉妹分だから、と、当たり前みたいに大事な紙をちぎってくれた。 戦場での絆は時間に代えられない。私はローラが大好きだった。 「別に」 ロビンはまた、小さな声で。 「まあ、ロビンにはそうだろうけどさ」 とりわけ気にせず、ビブルカードを拾い上げる。その腕をロビンが掴んだ。 「どうしたの?」 「……なんでもないわ」 自分のしたことに驚いたような顔をして、ロビンはぱっと手を離す。私は思わず、離れかけたその手を掴み返した。 「別にとかなんでもないとか、やめてよ。怖くなる。また居なくなったりしないでしょうね?」 ロビンは眉を寄せて、握った私の手をやさしく振りほどく。核心に触れたのだ、と、半ば無意識に悟った。 「どうしたら私は形に残せるの」 「なに?」 「……あなたに、約束をしたい。言葉だけじゃなくて」 ロビンは困った顔をしていた。私も困ってしまった。 「もうどこにも行かないわ。あなたを置いては、どこへも行けない。でも言葉だけじゃ、あなたはそうやって不安になるんでしょう? だから証を立てたいの。あなたのその肩や、手首にあるような。そしてこの小さな紙の一切れのような。」 「ロビン……それってやきもち?」 思わず言ってしまって、少し率直すぎたかなと思う。ロビンは驚いて私を見た。いやいや、驚いてるのは私です。 「そう、なるの?」 「知らないけど。なんかそんな気がした。――単純に、ローラが私を姉妹分だって言ったこととか、私がそれにうかれてることとか、気に入らないんじゃない?」 「そうね、それは……気に入らないわ」 「はは、素直」 今度は2人揃って笑う。どうしたことだろう、この、読めないお姉さんのあけすけっぷりは。 突然私は本格的にうかれて、ロビンの額にキスをした。 「証の立て方は、自分で考えて。どんな形だっていいから。」 「ナミちゃ、」 「それと私は信じてる。ロビンがもう、私なしでは生きられないってこと。でも、それでも不安になってみせるのが乙女ってやつだから、まあその辺はご愛嬌ね。」 にやっと笑って、背中を向ける。振り返る一瞬、呆気に取られたロビンの顔が見えた。 そんな顔を見せてくれるくらいには、私に揺らされてるあんたを知ってる。 だから私は、たまに怖くなっても、約束できる未来なんて本当はないって知りながらも、あんたは絶対私に帰ってくるって信じてられる。
知らないでしょう。あんたが残した証は、この船の中、心の中、体中どこにだってある。 私があんたを愛して、あんたが私を愛した証拠のひとつひとつに。
「素直に、キスしてって言えばよかったかな」
女部屋を出て、そんなことを呟きながらくすくす笑う。 今夜、まだ困った顔をしてたら教えてあげよう。
引き合うように交わされる口付けのさなか。
2000年01月22日(土)
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