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■ 麦わら海賊団規則、第1節第1条第1項【ルナミロビ】
「おいロビン!おまえなんてことすんだよっ!」 年長組3人、他愛もない話をしてるところに駆け込んできて、息切らせながら叫んだのはウソップだった。その隣で、涙目になったチョッパーが同じようにロビンを睨んでいる。 「……心当たりがないけど?」 「ナチュラルにひでぇことしたんだろ、悪魔の子」 「失礼ね」 「ヨホホ、そうですよフランキーさん!女性はみんな小悪魔なんです!」 「それはフォローのつもり?」 「つまんねぇトリオ漫才やってんじゃねぇ!こっちは命の危機だったんだぞ!」 「そうだぞ!」 ますます怒りのボルテージを上げていくウソップとチョッパーに、ついついそれてしまった話を慌てて打ち切る。 そうして改めて見てみれば、2人の目に浮かんでいたのは怒りよりは恐怖だった。 「でも、本当に心当たりがないのよ」 「ロビン、ナミに“泣ける話100選”貸しただろ。あれ読んでナミが泣いてたんだ。」 「あらそう。あれ、本当にいい話が多いのよね。特に前半が、」 「しかもだ!たまたまそのグッドなタイミングでおれ達がそばを通りかかっちまったんだよ。幸い、見つかる前に走って逃げてきたから無事だったけどな……」 額の汗を拭いながら、ウソップはあくまで真剣な顔。一向に話の見えない3人は、お互いに顔を見合わせて首を傾げたり肩をすくめたり。 「あ、そうか。ウソップ、みんなまだ知らないんじゃないか?あれ。」 「おぉそうか。ぬかったな。よし、じゃあいい機会だ、教えてやる。よぉく聞けよ、新入りども!」 急に「キャプテン・ウソップモード」に入ったウソップが、手近な空樽の上に立って腰に手を当てる。 チョッパーが調子を合わせてよぉく聞けよと念押しに一言。 「麦わら海賊団規則、第1節第1条第1項!!」 なんとはなしに起こるまばらな拍手。 そういえば、そんな話はついぞ聞かされたことがない。 小さく奔放とは言え海賊船、破れぬ規則のひとつやふたつはあるだろう。 オーソドックスなところでいけば盗むな犯すな殺すな、そんなところだろうか。 歳を重ねた3人がそんなことをつらつら考えているうちに、指を一本掲げたウソップが、声高らかに宣言する。
「“うちの航海士を泣かすな”!」
「どんな理由があってもだ!!」 どーんと効果音でも入りそうな迫力に、チョッパーも堂々と胸を張りあとに続く。 年長組が呆気に取られているのも気にした様子はない。 「6億は軽く超える海賊船のルールが、いの一番でそれかよ?」 「ヨホホ、何につけても斬新ですねぇ!」 「甘くみんな!」 緊張感の欠片もない3人に、空樽を飛び降りてウソップが詰め寄る。 「ナミが一度、サンジの手伝いをしてるときに切ってた玉ねぎが目に染みて泣いたことがある。たまたま通りかかったルフィがそれを見て、サンジを半殺しにしたんだ。勿論状況を知ってたおれ達はルフィを止めたさ。でも聞いちゃくれなかった。どんな理由であれ、相手が誰であれ、ナミを泣かせたらルフィが許しちゃおかねぇ。それがこの船の唯一にして絶対のルールだ。――よく、覚えとけ。」 しん、と場が静まり返る。 ごくりと鳴った喉の音は、誰のものだったか。 沈黙を破ったのはウソップだった。 「分かりゃいーんだ、分かりゃ。」 ふうと息をついて鷹揚に頷く。 「つうかな、ロビン。おまえも実際やばかったんだぜ?」 「私?」 「ああ、そうだな。ロビンは危なかった。」 「泣けるような本を貸したのは今回が初めてだけど……」 「ちげーよ。おまえがW7でおれ達の前から姿を消したときの話だ。おれらは見てねーから細かいことは知らねぇけど、行方不明になってたルフィをナミが見つけたとき、ナミが泣いたらしいんだ。もちろんおまえのことでだぞ、ロビン?一昨日だったか、あいつそのことを急に思い出して、おまえを殴りに行くって大騒ぎになったんだ。」 「まぁ」 「アウアウ、それでどうなったんだ?」 「せっかく無事に帰ってきたロビンに何すんだって、おれ達は止めたんだ。でも、本気のルフィにおれ達が敵うわけなくて……」 ウソップのあとをチョッパーが継ぐ。身振り手振りも交えた説明に、どれくらい怖かったのかが手に取るように分かる。 「それではロビンさんは、そのままルフィさんの手で海の藻屑に……」 「なってないわ」 「ヨホホ、そうでしたね!」 「だからおまえら真面目に聞けよ!」 集中力の欠片もないブルックに話の腰を折られ、ウソップが絶叫する。 その大音声に被せるように、靴音が響いた。 「あんたらさっきから何騒いでんのよ?」 「うわナミ!」 「くっ、くるなぁぁ!!」 「失礼ね、人を化物みたいに。あ、ロビン。ちょうどよかった、これありがとう。すっごい泣けた。でも後半はいまいちね。」 十字架を差し出したりランブルをかじって毛皮の塊になったりしてるウソップとチョッパーの隣を軽く素通りして、手にした本をロビンに渡す。 「ええ、そうなの。後半は同じような話の繰り返しだから。」 「で、ロビンが私を泣かしたって話だっけ?」 くすっと笑って、何食わぬ顔のロビンを上目遣いで見上げる。 「なんだおまえ、盗み聞きか」 呆れ顔のフランキーの方に視線をやって、ナミは眉を寄せた。 「だから失礼なのよ、あんたたち。あんだけ大声で喚いてれば嫌でも聞こえるわ。」 「だったら最初から声かけろよな」 「うっさいウソップ。ルフィに言いつけるわよ、あんたに泣かされたって。」 「おまえ悪魔か!」 「変態だ!」 「え?」 チョッパーの一言に反応するフランキーは放っておいて。 好奇心に負けたロビンが、大騒ぎするほかの面々そっちのけで会話を遮った。 「それで、どうして私は怒れる船長の制裁を逃れられたのかしら?」 ぱたりと収まる騒ぎ。フランキーとブルックが、説明を求めてウソップとチョッパーを見て、見られた2人はおまえが言えよとナミを見た。 「それはね、」 悪戯好きそうな笑顔でくすくす笑い、ナミがロビンを見る。 「私の大事なひとを傷つけたら、あんたが私を泣かすことになるわよ、って言ってやったの。」
痴話げんかものろけ話もうんざりだと言うように、ぞろぞろ解散していった仲間たちから取り残されて2人。 幸せそうに笑い合っていた。
「お礼を言いにいかなくちゃ、ルフィに。」
「え、私にじゃないの?あんたを助けたの、私よ。」
「いいの」
「変なの。」
「いいの、あなたは、笑っていて。」
ルフィ、ナミちゃんの笑顔を、守ってきてくれてありがとう。 無茶で、めちゃくちゃで、理不尽なくらい無理矢理だけど。
あなたが守ってきたこの笑顔が、私を強く守ってくれる。
変わらないでね、ルフィ。
どんな理由であれ私が 彼女を傷つけるだけの存在に成り下がったら
ゆるさないで。
君が笑ってくれるなら、僕は悪にでもなる。
サンジ半殺し事件はウソップが大げさに言ってるだけで、サンジ君が「おれがナミさん泣かすわけねぇだろ!」ってキレて、2人して原因がなんだったか分からなくなるくらい馬鹿馬鹿しいケンカをしてひとしきり呆れたナミさんが止めに入って終わりました(笑)
命を懸けてお互いを助けに行けるけど、ナミさんの笑顔を奪うならそんな相手でもためらわず傷つけられる。 うちのルフィとロビンちゃんはそんな関係です。 そしてナミさんを笑わせてくれてるうちは、恋敵でも全力で守る。
2000年01月14日(金)
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