麦わらテンガロン【ルナミロビ】

「かぶっとけよ、陽射し強ぇから」

甲板に寝転がったナミのそばにどっと座り込んで、ぐいと麦わら帽子を押し付ける。
閉じた瞼から感じていた強い光が遮られて、少しくらっとした。

「なによ、珍しい。あんたに乙女の肌の心配が出来るなんてね。ロビンにはいいの?」

帽子を指先で押し上げて、隣に片膝立てて座るルフィを見た。
夏島の海域に入って数日。すっかり日焼けした肌が彼の無頓着さを物語る。

「あいつにはテンガロンハットがあるだろ」

「それもそうね」

麦わら帽子を深く被り直して、また芝生に身を沈めた。
陽の遮られた小さな闇の中でひとつ思い出したことがある。

「こんなふうにロビンが、テンガロンハットを被せてくれたことがあるわ。
 あの白いテンガロンハット。やっぱり陽射しの強い日にね。」

「知ってる」

「そうなの?」

「“こんなふうに”、だろ?」

「そうよ、こんなふうに……ああ、だからなの?」

「そうだよ。おまえにぶいな」

「ふふ、やきもちだったとは。」

「うるせぇなぁ」

照れるふうでもなくルフィは少し笑った。

男の子なんだと、思うときがある。
それは決まってこんなときだ。

力強く拳を振り下ろすときじゃない。
何気ない日常の横顔。穏やかに、熱い想いを覗かせてくれるとき。
そんな横顔を見ていると心臓の方がもたなそうで、思わず「ねぇ」と声をかけて、こっちを向いて欲しくなる。

「なんでみんなしてそんな、帽子にこだわるの」

「知らねぇ。おまえもやればいいじゃん。そーすりゃ分かるんじゃねぇか?」

「そうしたら、麦わらでできたテンガロンハット、被ることにするわ」

ケンカにならないように、とナミが笑う。

なんの話だよとルフィは言って、答えが返ってこないことを承知してたようにもう次のことを考えていた。

「麦わらでできたテンガロンハットか、」

顎に手をあて首を傾げながら。

「“帽子ハット”だな?」

「肝心な要素がほぼ入ってないじゃない。せめて“麦わらテンガロン”とか」

「だせーよ」

「ネーミングセンスであんたと張り合いたくもないわ」

ナミが会話を切り上げると、ルフィは弾むように立ち上がった。
遠くでルフィを呼ぶ声がする。
おうと応えて歩いていく、その背中と入れ違いに駆け寄るチョッパーの姿がすぼめた視界でうっすら見えた。

「おれのも貸そうか、ナミ?」

「いいのよ、チョッパー。これ以上話をややこしくしないで」

苦笑いを装って楽しそうな響きの笑い声。
首を傾げたチョッパーには、麦わら帽子で覆われたナミの顔は見えない。
ナミはいつもむずかしい話をするなと思いながら、チョッパーは隣にすとんと座る。

夏の温度で太陽は燃えている。
海から吹く風もその熱は冷ませない。



想い募らせた麦わらテンガロン あぁ、からみあう。





我が家では、穏やかにさわやかに根深い三角関係です。


2000年01月13日(木)
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