まゆのウォーキング、ぼちぼち日記

2006年09月30日(土) 犬とおばさんの話

《お休み日変更のお知らせ》

今まで、毎週、日曜日をお休みにしておりましたが、
来週から、金曜日と土曜日をお休みに変更いたします。
暮れに向かって、仕事がつまってきました…ふぅ
どぞ、よろしくお願いいたします。 <(_ _)>





さて、毎日、ウォーキングをしていると、
必ず会うのが、犬を連れて散歩している人たちである。

だいたい、犬を連れて散歩している人に、

「かわいいですね、写真を撮っていいですか?」
と、聞くと、飼い主さんはとても笑顔になって、
どんな怖そうなおじさんでも、

「どうぞ、ほら、○○、写真撮ってくれるって、
 ちゃんとカメラの方を向いて…」

などと、嬉しそうに言ってくれる。

飼い主さんは、いい写真を撮ってもらいたいと
思うらしく、何とか犬に正面を向かせようと
してくれるけど、犬の方は、こちらをちゃんと
向いてくれることは、まずない。
特に若い犬は、まずダメで、動き回っていて、
正面の写真なんてうまく撮れた試しがない。
って、腕が悪いってのもあるけどね。

すると、飼い主さんは、
そんな落ち着きのない犬を見て、だいたい、
犬の性格とか、ちょっとしたエピソードを話してくれる。
私は、そんな話を聞くのも好きである。


実は、先日、ウォーキング中に
2匹の犬を連れて散歩している、
飼い主さんに出合い、私はその飼い主さんの
話を聞くことになったのだ。
今日は、その話です。



いつものように、てくてくと
歩いていると、前の方から、
ぬいぐるみのような犬さんを連れた
おばさんがゆっくりとやってきた。
私は思わず、声をかけた。


「わぁ〜、ぬいぐるみのようですね、
 こんなにもこもこして…かわいいなぁ」
すると、おばさんは、とても嬉しそうに、
「そうなの。みんなにそう言われるわ。
 洗うと、ぺちゃっとなって気の毒なかっこうに
 なるんだけどね、乾くとこうなの」



で、私はいつものように、こう聞いた。
「写真撮ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ、どうぞ、ほら、写真だって」
おばさんは、例に漏れず、犬たちを、
カメラの方を向かせようとしたけど、
犬たちは、どうやら、地面についてるニオイが
きになるらしく、どうしても顔を上げてくれなかった。





私は、角度を変えたり、口笛を吹いてみたりした。
けれど、全然、こちらを向く気配がない。
特に、ぬいぐるみのようにかわいいグレーの方は、
全然、顔を上げようとしない。








私は、写真をあきらめて、
「どうもありがとうございます。ちょっとダメみたい
 ですね、でも、とてもかわいいなぁ…
 いいですね、こんなかわいい犬さんが一緒で…」
と言った。


すると、おばさんが、
突然こう言ったのだ。



「あのね、こうして散歩に出られるようになったのは、
 この犬たちのおかげでね、最近なのよ」
そう言われると、こちらも、
「あら、そうなんですか…最近なんですか?」
と聞き返すのが自然である。
私は自然に従った。



そして、おばさんは、こんな話を
し始めたのである。



「ええ、そうなのよ。私ね、子宮ガンだったの。
 その前にもガンの手術しててね…」
「え、そうなんですか?でも、今はこうして
 歩けるように、なられたんですね」

私は、このおばさんがまだ話したいような
感じだったので、話を聞く態勢を取った。


「あのね、私ね、ガンになって、手術してから、
 ちょっと頭がおかしくなったの…」 
おばさんは、こう言ってから、話始めた。



以下から、おばさんが話した内容です。
(あまりに個人的なことは、少し変えています)


あのね、最初のガンの手術が終わって、その後に、
子宮ガンが見つかったのが、ショックでね、
すぐに手術したんだけど…
それが、身に応えてね…
その後の、抗ガン治療がまた辛くてね。
髪の毛が全部なくなったのよ。

それでも、何とか退院して、
リハビリもして、歩けるようになったの。

そんなことが重なって…
退院しても、ボーっとしたりしてて、
そうしたら、この子たちが散歩に行こうって
言うのよ、毎日。

でね、私もこうしていても仕方ないと思って、
散歩に出るようになったの。


ところが、退院したての頃は、
どうも普通でなくて、頭がおかしくてね、
とんでもないことをやっちゃったの…



「とんでもないことですか?」
「ええ、そうなの…
 頭が完全におかしかったのよ…」


おばさんは、また話始めた。



そのころね、カツラをかぶっていたの。
でもね、ボーっとしているから、
カツラを止めるなんてしてなくて、
道路を歩いていたときに、風が吹いてきて、
カツラがね、飛んじゃったの…

私はびっくりしてね…
とても焦って…
でも、足は思うように動かないし。
犬たちは、カツラを取り合いしてるし。

そしたらね、そんな私を見て、
大笑いしている若いカップルがいたの。
特に、女性が大笑いしてたわ。
そりゃ、おかしかったと思うわ。
カツラが飛んで、このもこもことした犬たちが
そのカツラを取り合いしてて、
はげ坊主のおばさんが呆然としてるんだから。


でもね、私、その時悔しくて悔しくて、
その上、頭がおかしかったから、ぼろぼろと
泣けてきて、涙が止まらなくてね、
何がなんだかわからなくなって、
その大笑いしていた女性のほっぺを
思いきり叩いたのよ。
びっくりしてたわ。



涙ぼろぼろと流しながら、おばさんに
ほっぺた叩かれたんだから、そりゃそうね、
すると、男性の方が、ハッとして、
「すいませんでした…」
と、謝ってくれたの…

女性の方も、ハッとしたようだったけど、
ただ、ビックリしてたわ。
「あ、すいません」とか言ったようだったけど。
私は、もう…どうしていいかわからなくて。

大急ぎで、カツラを犬から取り返して、
それを持って…泣きながら帰って来たの。
頭がおかしかったのよ…あのときは。
カツラだって、ちゃんと止めておけば
よかったのに、そんなことも考えられなかったしね。

この事件が、忘れられなくてね…
長い間、外に出ることが出来なかったの。
子宮ガンの手術は、もう1年くらい前にしたんだけど、
その出来ごとがあってからね、
外に出られなくて…
ショックというか、情けないというか、
頭がおかしい…と言うか。


そしたらね、またね、この子達が、
毎日毎日、夕方になると
「散歩に行こうよ」って顔してやってくるの。
私は行かないのに、毎日来るのよ。
娘が買ってくれた犬たちなんだけど、
私のところに夕方になると、毎日来るわけ。
毎日毎日ね…

それでね、私もだんだん落ち着いてきて、
また、散歩に行こうかなって思うようになって、
それでね、ちょっとづつ外に出るようになったの。
まだ最近なんだけどね。
この犬たちのおかげだわ。




私は黙って、話を聞いていた。


「あら、ごめんなさいね、引き止めて…」
と、おばさんが言ったので、こう答えた。
「いいえ、とんでもないです。そうだったんですか…
 辛い思いをなさいましたね。
 今でも、そのことが気になっていらっしゃるんですか?」


するとおばさんは、こう答えた。

「今でも、どうしてあんなことをしたのかと、
 本当にとても気になってるわ」



「でも、今はね、大分落ち着いてね、
 髪も生えてきたしね。
 だから、カツラはやめて、今は帽子にしたの」
「そうですか、それは良かったですね…
 でも、病気になると、普通じゃないことが、
 いろいろと、あるんじゃないでしょうか?」


そう私が言うと、
おばさんは、


「そうね、でも…きっと
 忘れられないわね…」



と苦笑いした。
私は、答えることばもなかったので、
ただうなづいた。

そして、犬たちをなでなでして、
「散歩に連れてきてもらえて良かったね」
と言いながら、心の中で、
「飼い主さんを守ってあげてね。」
と思っていた。

それから、立ち上がって、おばさんに、
「毎日、散歩なさってくださいね。
 また、お会い出来るといいですね。
 今日はどうもありがとうございます」
とお礼を言って、別れた。

おばさんも、こちらこそと
お礼を言って、ゆっくりとまた歩いて行った。
私はその後ろ姿を見送った。
そして、「元気でいてくださいね」と
心から思ったのでした。





犬を通して、こんな出会いもあります。
こんな出会いも大切にしたいとつくづく思います。






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