言の葉孝

2005年08月06日(土) 60年経った原爆の日

 い、一応更新しました。日付け変わっちゃったけどね!

 今日は8月6日、ヒロシマに原爆が落とされた日としていろいろな式典が催されました。

 あの日から始まったものがあります。核競争です。書いた後、アップするのをすっかり忘れていたのですが、国際政治史のレポートはまさにその核競争のことなので、この機会にアップしておきます。




相互確実破壊とSDI計画


1、相互確実破壊
 1945年にアメリカが初めて原子爆弾と言う核兵器を見せた後、世界はソ連+共産主義諸国VS米+資本主義諸国の冷戦が始まった。冷戦の歴史はまた核戦略の発達の歴史でもある。相互確実破壊(MAD)は、そんな米ソの核兵器開発競争の果てに生まれた体制である。
 ソ連が核兵器を完成させたのは1949年のことだが、弾頭は大量に保有していても、それを敵国に運ぶ適切な運搬手段に掛けていたため、1957年まではアメリカが一方的に「手を挙げろ」とソ連の眉間に銃を突き付けている状態だった。ソ連は弾丸を持っていても、それを発射するために必要な、信頼できる銃は持っていなかったのである。
 しかし、1957年にこの圧倒的な状況が一変する。ソ連の世界初の人工衛星《スプートニク》の打ち上げ成功である。こうしてソ連は欠けていた銃、核の運搬手段を確保した。即ち《スプートニク》を宇宙に運んだロケットである。無人であるため、安全に相手の国に核を送り込む事のできる運搬手段を開発し、まだ戦略爆撃機に頼っていたアメリカに一歩先んじた形となった。“ミサイル・ギャップ”と呼ばれた、その方面の技術力の差はアメリカに衝撃を与えたらしく、それにせき立てられるようにして、その差はあっという間に埋められてしまう。こうして、双方大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有、配備しお互いに拳銃を突き付け合う状態となった。
 そして1966年以降のヴェトナム戦争以降、弾数や銃の性能などではアメリカ優勢であった状況が動き、多数の専門家達が両者の核戦力バランスに均衡が生まれたとされている。ヴェトナム戦争が長期化し泥沼化して、地元の一般住民に多大な被害を与えていること知った国民が反戦運動を起こし、結果的に米軍はヴェトナムから兵を退くことになった。それ以来、アメリカ国内では反戦色が強くなり、その影響で軍事費が大幅に削られてしまったので、アメリカは核戦力開発に力を入れにくくなったのである。その隙にソ連が追い付いてしまったというわけである。
 レーガン大統領などは、アメリカがソ連に核戦力開発競争で遅れをとっているという発言をしたというが、E.P.トンプソン氏の説によると、これはMXミサイルの配備に伴う巨額の軍事費を国民に認めさせるため、恐怖を煽る一種の政治戦略だったという。また、先の“ミサイル・ギャップ”についても、リップ・バルケリー氏は「米国があれこれの兵器システムを増強するためにいつも使う主張の一つが「ギャップ」である。米国の言う「ギャップ」を振り返ってみると、現実は反対だった。かつて実際に戦略爆撃機ギャップがあり、まさにミサイル・ギャップがあった。だが、二回とも圧倒的優位に立っていたのは、米国の方だった」(*1)と述べている。
 このように、どちらの核戦力が勝っていたかに関しては諸説あるが、一つ確かな事は、ある時点から報復による甚大な被害を考えると両国ともミサイルの発射スイッチを押せなくなる状況になったということである。
 こうして生まれたのが、相互確証破壊という状況である。これをブルース・M・ラセット氏は「米ソとも、相手の攻撃にたえて生き残りうる以上の戦略報復能力を十分に持っている。たしかに、地上固定のミサイルは、相手の攻撃に対して脆弱になりつつあるけれども(脆弱性の程度については、深い意見の対立はあるにしても)他のタイプの戦略核兵器は地上固定のミサイルにくらべれば、ずっと非脆弱である。長距離爆撃機は空中にある場合には安全である。潜水艦から発射されるように設計されたミサイルSLBMは、ことのほかよく保護されている。アメリカのミサイル搭載の潜水艦が一九九〇年代においてすら脆弱になるという可能性はまずない。SLBMを探し出すことは非常にむずかしい。しかもソ連の対潜攻撃テクノロジーは、アメリカのそれにくらべると、相当に遅れをとっている。ソ連のICBMは、個別的にはいくぶん脆弱であるかもしれない。しかし、ソ連があまりにも多くのICBMを保有しているがゆえに(一九八二年現在で、およそ一四〇〇基のICBMを保有し、しかもトータルで五〇〇〇の核弾頭がICBMに装備されている)、アメリカの政策決定者たちは、それらのミサイルを全て破壊できる力をアメリカがもっているかどうかについて、確信を持ちえなくなっている。報復は避けられない」(*2)と至極妥当に分析している。
 そこで米ソは核を突きつけあうことで、逆に相手の核を封じられることに注目し、すでに発生していた相互確実破壊の状況を強めるために、1972年にお互いの対核ミサイル防御能力を抑える弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約が結ばれ、相互確実破壊戦略が完成したのである。

2、SDI(スターウォーズ)計画
 相互確実破壊戦略はその後十年ほど、核戦争を抑止し続けてきたが、この状況を良しとしない大統領が現れた。ロナルド・レーガン大統領である。カーター大統領から政権を受け継いだレーガン大統領は軍事面について当時では最新のICBMであるMXミサイルの配備問題を抱えていた。上記で少し触れたように、ソ連の軍事技術がアメリカを上回っているとして国民を怖がらせたりした政治戦略を含む紆余曲折の末、それは認められたわけだが、地上固定式ミサイルを守るための盾として、最終的に計画されたのがSDI計画、別名スターウォーズ計画である。つまり、ICBMが相手国の地上から飛び立ち、宇宙を経て、自国の地へ降ってくるミサイルを宇宙に配備した衛星兵器で捕捉、撃墜しようというものだった。
 これは相互確実破壊の中核である、ABM制限条約を明らかに反故にするアイデアである。相互確実破壊は、お互い否定できない報復の可能性によって、核による第一撃を封じるというものであるため、報復を防ぐことのできる“盾”を作ってしまうと、盾を持った側が第一撃を加えられるようになってしまう。
 むろん当時の技術からすれば、SDI計画は途方もない実現性に乏しいものだったが、それでもレーガン大統領は「バカげた戦略だ。米ソ両国は相手国の国民を人質にし、そして、我々は自国の国民を核攻撃から守らないというんだから(*3)」と、相互確実破壊という状況を動かす意思を露にしたのである。
 それに対しソ連は慌ててそれに対抗して軍拡を行おうとするが、そこで限界を突破し、ソ連は空中分解してしまい、ソ連の崩壊によって冷戦は終結してしまう。レーガン大統領の後を継いだブッシュ大統領は、SDI計画を大幅に縮小し、それに含まれていたファンタジックとも言える宇宙兵器の数々は廃棄されABMを中心としたミサイル防衛戦略に取って代わられたが、それでもABM制限条約はすでに機能しない状況になっている。

3、まとめ
「しかし、この目的は、米ソ両国が核を捨てようという道理にかなった合意を結ぶことで、明日にでも、しかも、まったくカネをかけずに実現できる(*4)」
 レーガン大統領がSDI計画に関する、ミサイルを通さない盾を作ることで用を成さなくなったミサイルを廃棄し、最終的に軍縮にもっていくことができるという演説に対して、E.P.トンプソンはこう述べている。
 これは私個人の意見になるが、これに一言返すとすると「それができれば苦労しない」である。特に今となっては、核保有国は増え、新たに北朝鮮に関して六カ国協議でもめている最中である。米露のみの話し合いでは終わらないだろう。
 しかし、常々思うことがあるのだが、この先核のスイッチを押すことのできる国が存在しうるのだろうか? その核攻撃が防がれようと、着弾して甚大な被害を生もうと、それを行った国は全人類の敵となり、経済から武力まであらゆる制裁を受けることになる。唯一、全世界を相手にとって国として存続しうるのはアメリカだろう。だとすれば、実際に核を用いる危険性が一番高いのはアメリカである。
 また、アメリカは世界の警察を名乗り、世界のリーダーとして振舞っている。ポテンシャルからすると、それは問題ない。だから、私が思う核廃棄の一番の策は「先ずアメリカが核兵器を全て廃棄すること」だ。どのみち報復にも核は使用できないし、国家ミサイル防衛(NMD)や戦域ミサイル防衛(TMD)で国を守れる技術があるなら、最先進国として真っ先に核を廃棄できるはずである。
 少々過激な提案になってしまったが、とにかく弾道ミサイル防衛(BMD)技術を高めるのは結構なことである。レーガン大統領が述べた核ミサイルを通さない盾を持てば核戦力縮小ができるという意見は私に言わせると的を射ている。無敵の盾を持つことによって、拳銃を突きつける必要もなくなるからだ。そして自分が非武装だと分かれば、相手も信頼して拳銃を捨ててくれる可能性も十分にある。

【引用箇所】
*1 E.P.トンプソン・編/小川明雄・訳『SDIとは何か 戦略的、経済的意味』(1986年)朝日新聞社 84ページ
*2 ブルース・M・ラセット・著/鴨 武彦・訳『安全保障のジレンマ』(1984年)有斐閣 7ページ
*3 E.P.トンプソン.編/小川明雄・訳『SDIとは何か 戦略的、経済的意味』(1986年)朝日新聞社 24ページ
*4 E.P.トンプソン.編/小川明雄・訳『SDIとは何か 戦略的、経済的意味』(1986年)朝日新聞社 15ページ

【参考文献】
E.P.トンプソン.編/小川明雄・訳『SDIとは何か 戦略的、経済的意味』(1986年)朝日新聞社
ブルース・M・ラセット・著/鴨 武彦・訳『安全保障のジレンマ』(1984年)有斐閣
江畑謙介・著『最新・アメリカの軍事力―変貌する国防戦略と兵器システム』(2002年)講談社




 自分的に、一番大事なところはやはり最後の部分。核兵器を用いる可能性が一番高い国は実はアメリカであるという下りと、世界から核兵器を廃絶するにはまずアメリカが核兵器を廃棄することであるという主張ですね。

 よく考えてみましょうよ。

1、核兵器を使った国はどうなるか? 全世界の敵となり即報復。武力制裁だけではなく経済制裁も加えられ、おそらく国として存続することは出来なくなる。
 でもアメリカは世界一の経済大国であり、軍事力を誇る国家です。世界中を敵に回してもおそらく渡り合える。

2、ヒロシマ、ナガサキに実際に原爆を投下。

3、最近では劣化ウラン弾問題もあり、実は戦争となるとかなりえげつない。


 でも、アメリカは世界のリーダーです。
 経済力、軍事力、政治力から、それは認めてやってもいい。でももう少し公平にいき、相手に核兵器を廃棄しろと言うなら、自分から率先して捨てるべきでしょう。それがリーダーたる勤めではないでしょうか。

 再び休会に向かいつつある六ヶ国協議も、皆で捨てようってことになれば北朝鮮が従わないわけがないですし。

 どのみち、報復には核は使えない。だったらその核兵器用に使っている大量の核物質を発電所とかにまわしとけ。




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