2019年03月09日(土) |
家族の言い訳 / 森 浩美 |
家族がテーマの短編集。
〇ホタルの熱 亭主に蒸発されて、よく熱を出す息子を連れて死に場所を探すため旅に出た。 辿り着いた海辺の民宿の女将さんに救われた。
〇乾いた声でも 仕事一筋の夫との距離を感じ始めたころ、その夫が会社で急死した。 若い秘書と関係があると感じていたけれど、夫の友人の言葉に後悔するのだった。
〇星空への寄り道 会社の整理を終えて帰宅するはずが、タクシー運転手の言葉で昔、家族と行った星空の美しい高原のホテルまで足を延ばした。
〇カレーの匂い 雑誌の副編集長をしている主人公は、取材先でかつての後輩に会った。 二人目の子供を妊娠しているという彼女は幸せそうで、今日は夫が早く帰ってくるのでカレーを作るのだと言った。 その彼女の夫から「きょうは急用ができて会えない」とメールがきた。
〇柿の代わり 私立高校の教員である吉村は若い妻との関係に悩んでいた。 受け持つクラスの女子生徒が万引きしたという連絡があって警察に行ったら、その女子生徒は昔、吉村が子供の頃によく近所の柿を盗んだような感覚で万引きしていたのだった。
〇おかあちゃんの口紅 身を構わない母がガンになった。 病院で医師からそう告げられて動揺したが、その母は子供の頃に授業参観で塗ってきてほしいと送った口紅をいまだに大事に持っていたのだった。
〇イブのクレヨン 母に捨てられたと思っていたから、なついてくれる妻の連れ子を可愛がった。 イブのホームパーティーに妻が母を招待した。 その母は失くしたと思っていたクレヨンを息子の代わりだと大事に持っていた。
〇粉雪のキャッチボール 高原のホテルの支配人をしていた父が65歳を機に退職するという。 最後の父の勤務を見るためホテルに宿泊した息子は、若い者から慕われている父の姿をみた。
著者は作詞家でかなりのミリオンセラーを生み出している。
薄情で軽薄な世の中になったとはいえ、家族との絆は深く重く、そして厄介で面倒な代物である。希望やあきらめ、下ろすに下ろせない荷物を背負うが如く、誰しもが日々の中で共生している。淡々とした悲しみや切なさ、ささやかな幸せの確認。あえて言えば、コドモには分からない部分。そんな場面を切り取ってみたかった。
良かった、面白いというより心に沁みる物語。
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