短編集は読みやすいようだけど私は何気に苦手で1冊、読み終えるのに エラい時間がかかってしまった
月冴え 寺で死人の湯灌を手伝う辰吉は幼なじみのキヌが生活のため茶屋奉公に出ることを知る。仕事仲間の熊太や平次やそして大塩平八郎の洗心洞で学問する浪人の十兵衛も同じ長屋に住む。 そんなある日、いつものように死体の湯灌を始めた辰吉はその死人がキヌであることを知って愕然とする。 十兵衛に今の世の中の生活苦は人災と教えられていた辰吉は、町方に追われて死んだ十兵衛が遺した銃を手にして大塩平八郎の決起に加わるべく道を急ぐのだった。大阪の町を覆う火の手はキヌを極楽浄土へ導びく精霊火だと思う辰吉だった。 龍のいる村 畿央龍神村の若衆組が公に休みを認めてもらおうと巳代次を頭に陣屋にたて突いた。が 龍神山に10日立てこもって巳代次を所払いにして決着がついた。巳代次のあとに頭になった龍吉だったが雨乞いの人柱にたったサキを救うことはできなかった。 6年の所払いから戻った巳代次がまた、年貢の軽減を願って陣屋と一戦をかまえた。巳代次は数人の仲間と戦ったが、最後に人柱となって湖に沈んだはずのサキの居所と抜け道を龍吉に教えて自爆してしまったのだ。
霧の中へ 泉州下津藩の勘定方の次男・篠崎源次郎が、自分の栄達のみを先行させる兄に反感を持ち、不条理な藩命に抵抗する。嫂と心通わせてしまった源次郎は家老の息子を切り嫂と共に脱藩を決める 天辻峠 文久三年(1863)に起こった天誅組の乱の裏側には、朝廷の攘夷親征の捨て石にされかかった十津川郷士たちがいた。そんな十津川郷士である仙蔵の苦衷の選択と、天誅組に男装して参加している清佳との絡みを書いている
海の遠景 神戸にできた海軍操練所で坂本龍馬と知り合い、その勧めで航海の技術を習得していく船修理見習いの東洋市が、幼い頃に父親を目の前で武士に無礼討ちされたトラウマをのり超えて時代の潮流に目を開いていく
雑兵 野菜売りのかたわらに町道場で剣術の稽古に励んでいた弥助が、師の推挙で幕府の雇兵応募に採用され、鳥羽・伏見の戦いに駆り出されたことで、時代の歯車が音をたてて回転していく様を直視することになる
一つ一つの話は独立していて、登場人物にも何の繋がりもないけれど歴史の流れは続いているのだ いずれも波乱の激動期に、その渦に巻き込まれていった若者たちが登場している ある日、若者は不条理なるものに抗して立ち上がる。あふれる情熱ともて余し気味のパワーを自分のために、愛する者のために、惜しみなく使い果たす。「おれたちは『生きる』ために生れてきた」と声高に叫びながら・・。
作者 あとがき
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