Promised Land...遙

 

 

嘘みたいな話(5) - 2007年01月08日(月)


榎木さんは長椅子に手を付くようにしながら、大きく足を伸ばした。それから空を見つめ、『良い天気だね』と呟く。
私も同じように空を見上げる。確かに空は雲一つない快晴で気温もちょうど良くて、風が気持ちが良い。お見合いなんかなきゃ、今頃友達と笑い合いながら羽を伸ばしていた。
でも、お見合いがなきゃこの人に出会えなかった。

「…断っても良いんだよ」
ぽつり、と榎木さんが呟いた言葉に、私は彼を見る。彼は困っているような笑みを浮かべて、私を見ていた。どうしてそんな顔をしているのだろう。
断わる―――お見合いの事だよね?どうしてそんな事言うんだろう。断って欲しいんだろうか。
「君はまだ高校生だろ?、俺みたいなおじさんは似合わないよね。だから、断って良いんだよ。君のお父さんの会社の事なら大丈夫だから…」
「そんな事ないっ!!」
私は思わず榎木さんの言葉を遮って、彼の胸ぐらを掴んだ。

「何でそんな事言うの!?良い言い方してるけど、結局私の事を自分には不似合いだって思ってんじゃん!ガキなんか相手に出来ないって言いたいんでしょ!?」
榎木さんが呆然として私を見てる。驚いたように目を見開いて。
困ってるのは分かる。それでも、止められない。
「私、ガキじゃないよっ!もう十六歳だから結婚も出来るし、その気になれば子供だって作れるんだよ!」
「葉月さん、落ち着いて」
「たったの十歳差でしょ!?私が二十代になったら、そんなの気になんないよ!それくらいの歳の差で結婚してる人達なんていっぱい居るよ!だから…」
ふいに強く抱き締められて、私は言葉を失う。
私、抱き締められてる…。な、何で?どうしよう、ドキドキして頭ん中真っ白だ。

榎木さんは直ぐに私の身体を離してくれた。顔を見たらちゃんと笑ってるから、私はほっと息を吐いた。
「落ち着いた?」
榎木さんの問いに、私はコクコクと何度も頷く。何だ、私を頭を真っ白にさせて喋れなくする為に抱き締めたのか。そう思うと…、ちょっとがっかり?
何だか複雑な気持ちで首を傾げていたら、榎木さんは私の頭をぽんぽんと撫でた。
「…子供扱いしないでよ」
そうだよ、私はまだ子供だよ。まだ十六歳で高校生だよ。でも、そんな私とお見合いをしたのは貴方で―――どんな事情があったって、お見合いした以上、私を子供扱いしないでよ。


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